Sunset Undead−9


翌日、日の出とともに部隊は車で出発し、唯斗とパーシヴァルも同乗した。
砂漠を走っているため大きく揺れる車内は灼熱の砂漠ということもあって蒸し暑く、防弾チョッキを着ているとかなり暑い。
やがて荒れ地を進んでいくと、ところどころに細長い袋が見られるようになった。兵士の死体だろう。エボラウイルスの感染が疑われるため、袋に入れられたままになっているらしい。ハエが飛んでおり、思わず目をそらした。

すると、岩山を超えて砂漠とヌビア湖が再び視界に入ったところで、突然こちらに向かって走ってくる者たちが現れた。
幅2キロほどの大きな入り江に停泊する難民船と、その周辺のテントから、次々と兵士たちが駆けてくる。誰もが口の端から血を流し、焦点の合わない目でこちらを見ながら走ってきた。

まるでゾンビ映画のようだ。ただのフィクションに過ぎないはずの光景が、今こうして目の前に広がっている。

アラビア語で呼びかける鎮圧部隊の言葉は聞こえていないのか、兵士たちはついにこちらの警戒ラインを超えた。
直後、鎮圧部隊はこちらに駆け寄る兵士たちを射殺していく。容赦なく銃弾が兵士を打ち抜き、血潮が砂漠に飛び散る。

パーシヴァルはとっさに、唯斗の目元をその大きな手で覆った。


「そこまで見る必要はない」

「…、うん」


小さくそれだけ言えたが、声を発するのもギリギリだ。パーシヴァルの配慮がなければまた体が震えていた。

再び車は動き出し、いよいよ難民船に近づく。銃撃音はずっと続いていたが、次第に少なくなっていく。
やがて音は止んで、車も止まった。


「唯斗、行こう。ひどい光景だが…」

「…大丈夫。行かなきゃいけない」


パーシヴァルは手を離し、唯斗は目に差し込む光の強さに目を細める。
事前に唯斗が通達していた通り、いったん車を出た兵士たちは防護服を軍服の上から着込んだ。相当に暑いが、エボラも狂犬病も接触することで感染するものだ。一切、体液が体に入らないようにする必要がある。

唯斗は防護服を一人一人確かめてやってから、自分もしっかりと着込んで、いざ、周囲の地獄絵図を見渡す。

砂漠に折り重なる死体の山。ほとんどが兵士だが、中には医療スタッフらしき民間人の死体もあった。難民船からだろう、腐臭が辺り一帯に漂っており、耐えきれなくなった兵士が風上に走り、ヌビア湖の波打ち際で防護服を脱いで吐いていた。

体が一部腐敗した状態で動いていたようで、死んだばかりの死体のはずなのに、すでに腐っているところがある。
砂に染み込んでいく血液に触れないようにしながら慎重に歩みを進め、唯斗は中型船の近くに建てられたテントに向かう。すぐ前をパーシヴァルが歩き、同じテント内の調査を任務とする兵士も周りを歩いてくれている。

あまり遺体は見ないようにしながらも、唯斗はテントの入り口から中を覗き、思わず足を止めた。防護服越しにもひどい悪臭だ。
動くものの気配はなく、銃を構えてクリアリングした兵士とパーシヴァルが顔をしかめながら後続を許す。

唯斗も中に入ると、すぐに目当てのものを見つけた。

無造作に簡易テーブルに置かれた医薬品の瓶と注射器。血で汚れたラベルには見慣れない薬品名が書かれていた。
慎重に蓋を開けて、中の錠剤を持参した中性材で作られた袋に入れる。同じように、辺りの薬品すべてをサンプルとして回収する。

その後、船内にいた人物とみられる私服の男性の死体や兵士の死体からもサンプルを回収し、一通り目的を果たしたときだった。

突然、南の方から銃声が響いてきたのだ。アラビア語で焦る男たちの声がして、兵士たちが一斉に銃を構えて走り出す。


「…唯斗、行こう。撤退用の乗用車が控えてくれている」

「分かった」


唯斗を優先的に離脱させるための乗用車も帯同していたため、唯斗はパーシヴァルに連れられ、急いで輸送車の駐車するところへと急ぐ。
しかし背後からは激しい銃撃戦の音がし始めていた。難民船を挟んで入り江の対岸で戦闘が起きている。

さらに、入り江を迂回するように装甲車が突如として現れ、死体を車輪で踏みながら乱暴に迫る。側面と上部の窓が開き、中から武装した男がいかついライフルを発砲し始めた。


「ッ、」

「走って!」


パーシヴァルに言われ、唯斗はすぐに走り出す。防護服を着て走るのはかなり無理があるが、パーシヴァルはすでに構えたライフルで応戦し始めた。
走りながら銃撃し、そのまま輸送車の一つの後ろに隠れる。


「防護服を脱いで、すぐに走る」

「っ、わかった」


パーシヴァルの指示通り、唯斗は防護服を急いで脱いで身軽になる。パーシヴァルも何発が撃ってから防護服を脱ぎ棄て、再び発砲する。
あちこちに銃撃音が響き渡っており、どうやら敵側は無差別に攻撃しているようだった。死体の山に、防護服を着た兵士の死体も重なっていく。

ようやく乗用車に到着すると、示し合わせたように兵士が扉を開く。中に飛び込むと、扉も締まりきらないうちに急発進した。
パーシヴァルはすぐに唯斗を後部座席に押し倒すと、覆いかぶさるように抱き締める。恐らく、普通の乗用車では銃弾が貫通するため、唯斗を守ってくれているのだ。

その太い腕に抱き込まれながら揺られていると、だんだん銃撃音が遠くなる。代わりに、何台もの装甲車がすれ違った。アブシンベルからの増援だ。

それを確認して、ようやくパーシヴァルは唯斗から体を離した。


「怪我はないかい?」

「大丈夫だ…あー、マジで心臓止まるかと思った」

「かなり危ないところだった。まさか、あれほどの練度の兵士がやってくるとは。本気で、君が言っていたことは正しいかもしれないな」


唯斗が回収した薬品類のうち、いくつかは見たことがなかった。エボラへの対処薬はすべて知っている唯斗だ、その唯斗が知らないなら、まだ認可されていない新薬のはず。
無許可治験だけでも重罪だが、それによって新種のウイルスが生まれたとなれば、計り知れないほど重い罪だ。

あの惨状を引き越こしたものの正体は何なのか、唯斗にはそれをつまびらかにする責任がある。



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