Sunset Undead−10
銃撃戦によって、アブシンベル空港が一時的に閉鎖されてしまったことから、唯斗とパーシヴァルは軍の輸送船で川を下り、アスワン市にやってきた。
アブシンベルからすぐのところにある都市であり、ヌビア湖を形成するアスワン・ハイ・ダムが知られる。このダムを建設するために、ラムセス2世の建設したアブシンベル神殿などの遺産が高台に移転させられ、これを機に世界遺産というものが創設された。
すでにアスワン空港からの便は終わっていた時間に到着したため、唯斗たちはいったん市内中心部のホテルに宿泊する。エジプト軍とはここで別れ、あとは個人として二人だけでガボンに戻る予定だ。
ナイル川に面した4つ星ホテルに入り、窓からの夕暮れに染まる眺めをぼんやりと見つめる。この部屋はナイル川ではなく市街地側に面しているが、川の右岸に広がる旧市街地と、そこから内陸に向かって標高が上がり丘になっていくにつれて新市街になっていく高低差が、ぎっしりと茶色く四角い建物に覆われている。
砂漠都市らしい、雨水を少しでも貯めるための四角い箱のような建物が埋め尽くす光景は、唯斗にとってはあまり嫌いなものではなかった。
そこに、パーシヴァルが声をかけてくる。一通りホテルを見てくるといって部屋を出ていたが、戻ってきていたようだ。
「大丈夫かい?」
「…あぁ。まさかあんな戦闘に巻き込まれるとはな。初めてじゃないとはいえ、やっぱいまだにドキドキする」
僅かに手が震える。実は、銃撃戦自体は初めてではない。エボラは不安定な情勢の地域で感染が拡大するため、小規模なものなら経験はあった。
しかし、今日のような規模のものはさすがに初めてだ。あのときは目まぐるしく事態が動いたため、恐怖を感じている暇もなかったが、今になって恐怖が沸き上がる。
その手をパーシヴァルが握り、包み込む。じわりと広がるぬくもりにようやく息をつけた気がして、思わずそのままパーシヴァルの体に凭れた。
「…悪い、嫌だったら言ってくれ。完全に業務外だし」
「はは、まったく嫌ではないよ。確かに私は君に雇われている派遣傭兵だが、それは個人的な信頼や感情を阻害するものではないだろう?」
「……なんか、初めてだ、こういう、一人じゃない研究の旅って。もちろん、同行者も傭兵も今までいたけど、あくまで俺が頑張るべきことで、俺の責任でやるべきことだったから。アウトブレイクに対応するのは初めてじゃないけど、こうやって誰かに支えてもらいながらってのは初めてだ」
ぽつりと漏らすと、パーシヴァルはその大きな手で、そっと唯斗の頭を撫でた。大の大人が、と思わないでもなかったが、存外心地よいそれを拒否できない。
「そうか…君は、ずっと一人で頑張ってきたんだね。君の強さであれば納得だ、それを成すに足る胆力、体力、気力を持っている。けれど今回はとりわけ過酷なんだろう?そんな折に、こうして私に凭れてくれることが、そういう機会に同行できたことが、とても嬉しい」
「…優しすぎるだろ、おまえ」
「誰に対しても、ということはないけれどね」
「…?」
どういうことかと、その高い位置にある顔を見上げるが、パーシヴァルは苦笑してから、おもむろに唯斗を抱き上げた。
「うわ、」
「さあ、そろそろ冷たい風が吹くようになる。シャワーを浴びておいで」
「自分で立てるっつの」
ベランダ前に置かれたシッティングスペースの椅子から抱え上げられ、口ではそう言いつつ抵抗はしなかった。