Liberté−10


翌日、唯斗は目覚めると自室とは違うベッドにいて、すでにソファーでコーヒーを飲んでいるサンソンをぽかんと見つめてしまった。


「おはようございます、唯斗。調子はどうですか」

「…おはよ。大丈夫、だけど…」


記憶はある。かなりきつかったが、サンソンに支えられながら薬もすぐに抜けていき、日付が変わる前にはもう睡魔に負けていた気がする。そしてそのまま寝てしまったのだろう。


「…わり、あのまま寝てたか。邪魔したな」

「全然邪魔などではなかったですよ。収まりがよくて」

「……、」


クイーンサイズのベッドで、唯斗は片側に寝ていた。不自然に開いた隣のスペースにサンソンがいたはずだ。しきりにサンソンが腕を伸ばしているのは痺れているからか。だとすれば、いわゆる腕枕だったのではないか。

このことを追及するととんでもないダメージが返ってきそうで、唯斗はサンソンの言葉への深追いは避けて別の話題を切り出す。


「あー…今何時だ?」

「まだ8時過ぎですよ。ホテルの朝食はさすがにゲストのみですが、近くに日曜でもやっているパティスリーがあります。イートインもあるのでいかがでしょう?」

「…そーする。着替え…つか服…」

「あぁ、唯斗が寝た後、着替えさせてもらいました。と言ってもバスローブですが」


はたと服装に気付いた。着ているのはバスローブで、どうやらサンソンが着替えさせてくれていたらしい。先ほど避けたダメージよりとんでもない致命傷を負わされた。


「…なんか…ほんと、悪い……」

「いえ、むしろありがとうございました」

「何言ってんだマジで…」


にっこりと礼を言ったサンソンに脱力する。距離が急速に近くなったというか、サンソンはすっかり勝手知ったるという仲になったようだった。
元はと言えば、昨晩唯斗もサンソンに思い切り抱き着いていたし、先にゼロ距離になったのは唯斗の方だったかもしれない。不快感などまったくなく、むしろサンソンに頭を撫でられる感覚に落ち着いたからこそ昨晩の苦しさを乗り切れたのだ。

サンソンはコーヒーを置いて、ベッドに上がってくる。ぎしりと鳴った音とともに、サンソンは唯斗の隣に肘をついて横になり、唯斗の頬をそっと撫でる。

唯斗はその手を掴まえると、硬い手の平にすり寄った。


「…昨日はほんとにありがとな」

「……どういたしまして。ですが唯斗、あまりベッドの上でかわいいことをするのはお勧めできませんね」

「え……」


柔らかい雰囲気から一転、そう言ったサンソンは妖し気に笑い、頬の手を首筋に滑らせる。バスローブの襟元など防御力はないに等しく、サンソンの指先は鎖骨あたりまで撫でてくる。


「っ、サンソン…?」

「…ただの忠告、と思いたいのならば、それでもかまいません。さぁ起きましょう唯斗、外に出るご用意を。僕はフロントに行って延泊の処理をしてきます」

「延泊…?」


サンソンはすぐに空気を変えて起き上がる。「このままこの街で夏季休暇をとろうと思います」と言うが速いがフロントに行ってしまった。確かに、昨日の会話の中で唯斗の夏の予定を聞かれて特にどこに行くでもないと答えていた。

それにしても、と唯斗はまずは着替えるべくベッドから降りる。
ただの忠告と思いたいならそれでいいなんて言っていたが、さすがに唯斗でもサンソンの意図が分かる。昨日からずっとそうだった。この距離の近さに、サンソンは単なる友人のそれだけを意味していない。

そういう感情を正面切って向けられることは初めてだった上に相手は男だ。もちろん動揺はある。だが、まったく悪い気もしないのも確かで、むしろそんな自分への動揺の方が大きいくらいだった。

なんとか心を落ち着かせつつ着替えて支度を整えると、すぐにサンソンが戻ってきた。意外と時間がかかったようだが、急な延泊、しかもバカンスシーズンとなれば空室の確保が難しかったのだろう。


「準備ができたなら行きましょうか」

「わかった」



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