長編番外編−金糸と翡翠


「無間氷焔世紀ゲッテルデメルング」
ゲルダとアーサーを間違える主



北欧異聞帯の第23集落、ゲルダの一人で住むには大きな家は快適で、用意してくれた食事も美味しかった。過酷な人生を強いられていることへの動揺こそあったものの、元気溌剌としたゲルダの様子に救われているのも確かだ。

唯斗は、あからさまに動揺していたマシュやゴルドルフたちよりも冷静だったため、ゲルダを安心させるための言動を意図的にしていた。
だからだろう、ゲルダも少しだけ唯斗には距離が近く、たまに頭を撫でてやるといたく喜んでいた。大人が少ない、ということも理由の一つかもしれない。

そんな時間の中で夕食を終えて、共同サウナを案内してもらい、ホカホカとしながら戻ってきたときのことだった。


「さあ、体が冷えないように温かいお茶を飲んで。あ、でも神の御使いは大丈夫なのかしら」

「ありがとうございますゲルダさん、とても暖かいです」

「ふふ、いいえ」


受け取った陶器に注がれたお茶を飲んでいると、立香とマシュはオーロラが見られるとのことでゲルダとともに屋外へと出ていった。
唯斗は寒いため遠慮したが、窓からも見事なオーロラが見えている。


「…とても幻想的だね。この世界は、残酷だけどとても美しい」

「そうだな。ロシアとは違う、守るための氷だ」


楽し気な声が外から聞こえてくる中で、唯斗も立ち上がって窓の近くに行き、夜空に浮かぶ美しい翡翠色のオーロラを眺める。まるでアーサーの瞳の色のようだ。
そういえば、ゲルダの瞳も同じような色をしている。北方ゲルマンらしい見た目の少女だ。


「唯斗、礼装とはいえ冷えてしまう。せめて毛布を羽織っておくといい」


すると、アーサーは近くにやってくると、しゃがんで棚の下段にしまわれた毛布を取り出そうとする。ゲルダから好きに使っていいと言われている引き出しだ。
膝をついて毛布を探しているアーサーに、オーロラを見つめながら礼を言おうとして、唯斗は腰の高さにある金髪を撫でた。


「ありがとな、アーサー」

「ッ、?!」


びくりと固まるアーサー。ぼんやりとオーロラを見ていた唯斗は、遅ればせながら撫でていたものを見下ろす。


「…悪い、ゲルダの目の色に似てるなって考えてたら、ゲルダと勘違った」

「……、いや、謝ることではないよ」


同じ金髪のため、つい、ゲルダにする感覚でアーサーの頭を撫でてしまったのだ。さすがに嫌だっただろうか、と様子を伺うが、意外にもアーサーは甘んじて唯斗の手を受けていた。


「…アーサー?」

「……あぁいや、すまない。当たり前と言えば当たり前だが、僕の頭を撫でる者なんていないから。新鮮な感覚だった」

「…普段あれだけ俺の頭撫でまわしてるのにな。まぁ、王だから当たり前だな」


そう言いつつ、唯斗はアーサーの頭を本格的に撫で始める。髪を梳くように撫でて、それでもぴょんと揺れるアホ毛を根本から撫でつけてみるが、手が通り過ぎるとやはりぴょこんと立ってしまう。
それに小さく笑うと、ようやくアーサーは困ったように見上げた。


「遊んでいるね?マスター」

「俺も新鮮でさ。このアホ毛どうなってんだろうな…それにしても、結構サラサラしてんのな。もっとごわついてるかと思った」

「エーテルだからね、痛むようなことはないよ。ただ、メイヴ女王いわく、サーヴァントでもキューティクル?とやらを気にすれば美しくはなるらしい」

「へぇ。俺は気にしたことなかったけど…触り心地悪いと撫でる方も嫌かもだよな。ボーダーの状況が改善したらシャンプー気にしてみるか…」


ようやくアーサーの頭から手を離し、自分の傷んだ毛先を撫でてみると、アーサーはおもむろに立ち上がる。そして唯斗を抱き締めて、唯斗の前髪あたりにキスをひとつ落とした。


「うわ、」

「無理しなくても、君への愛しさがあふれたときに撫でているからね。たとえ毛先が荒廃していても問題ないさ」

「荒廃」


どんな表現だとくすくす笑いつつ、自分が気になってしまったため、これからは最低限のことくらいはしてみようかという気になる。

そこでふと、すぐ目先になったアーサーの瞳が目に映る。至近距離で見上げたそれは、やはり外の光と同じ色をしていた。
唯斗はアーサーの前髪をかき分けて、目元をそっと撫でる。アーサーはきょとんとした。


「マスター?」

「アーサーの瞳の色、オーロラみたいで綺麗だ」

「っ…、きみは…どこで覚えてくるんだい、そういうの…」


ありのままの感想を述べてみたところ、アーサーは突然顔を少し赤くする。確かに、思い返すとまるで口説くようなキザったらしい言葉になってしまった。


「…悪い、なんか口から出てきた。うわ恥っず…」

「まぁ…うん、君に口説かれるのは、正直とても心地いい。ただ、狙ったものじゃないなら、気を付けないと他の人やサーヴァントにも口説いてしまうことになる。いつか再召喚して他のサーヴァントと再会したら要注意だよ」

「肝に銘じておく…ってか狙って口説くわけねぇだろ」

「はは、そうだろうね」


アーサーの腕の中で、羞恥を煽られその首元に顔を埋める。ごわごわとした唯斗の髪に、また一つ、アーサーがキスを落とした。



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