長編番外編−皇帝の気まぐれ
中国異聞帯後
ナポレオンに口説かれる主
異聞帯で出会ったサーヴァントたちも加え、以前のカルデアよりも賑やかになったノウム・カルデア。
異聞帯の王として霊基が成立しているスカディや始皇帝は記憶を有しているものの、アナスタシアやワルキューレなどは汎人類史の存在のため、異聞帯での戦いを覚えていない。
その一人、ナポレオンもまた、記憶のないまっさらな状態でカルデアにやってきた。
立香のサーヴァントとして、その気さくな性質からすぐに打ち解けていたが、カルデアの旅の記録を見て、北欧でのことを知ったあとは少し複雑そうな表情をすることもあるようだ。
そんな中、ナポレオンは立香に連れられて、食堂でアーサーと食事をしていた唯斗のところにやってきた。
「唯斗、」
「ん、どうした」
「ナポレオンがその、ぜひお近づきになりたいって」
「え、」
立香に仲介を依頼したのだろう、近くにやってきたナポレオンは呆れたようにする。
「メートル、俺はそこまで言っていないぞ、誤解を招くだろう」
「おや、誤解なんだね、よかった。一応、相性不利の相手だから」
アーサーは笑顔でそんなことを言って、立香は苦笑する。一方、ナポレオンはその言葉の意味を理解できない男ではないため、アーサーと唯斗を交互に見比べる。
「まさか、あのアーサー王が魔術師の少年となぁ…」
「それが何か?フランス皇帝殿」
「これは失礼した、ロワ・ド・ブルターニュ。カルデアの旅の記録を見ても、アーサー王とそのマスターが結ばれるのは、不自然なことではないと思ったものさ」
「なんか用事か?」
唯斗がとりあえずナポレオンに問いかけると、ナポレオンは唯斗を見て微妙な顔をする。「思ってた反応と違う」と顔に書いてある。
「うむ…自分で言うのもなんだが、普通、後世のフランスの少年なら、俺を見てもろ手を挙げて喜びを示すものだと思っていたんだが…まさか、甥っ子の方か?それともアンリ4世派か?」
本来であれば、ナポレオンに対して唯斗もテンションを上げていただろうが、このナポレオンという英霊がどんな人物かは北欧でよく知っている。
残念なところもある一方で、人の願いを叶えることを象徴する、英霊の中の英霊という概念の表象。
「まぁ、北欧でさんざん世話になったからな、あんたからは初めてだろうけど、俺にとっては初めてじゃない。とはいえ、自己紹介したきりだったな」
どのサーヴァントも、召喚した日に紹介を受けているため、一通り全員挨拶はしてある。ただ、ナポレオンともそうだったが、召喚した日は霊基の検査と登録、カルデアの案内や現代の知識の教示などやることが多いため、挨拶しかしていない。
「フランス育ちの少年で、しかもあのアーサー王と恋仲。さらに、サーヴァントの中にはラムセス2世やアキレウスまでいるというじゃないか!かといって、そのマスターは屈強な傑物でもなく、むしろ美少年ときた。事実は小説よりも奇なりとはまさに、だな!」
「そうか…?」
むしろテンションを上げているのはナポレオンのようだ。異聞帯でも、アーサーやアキレウスに興奮していたのを思い出す。
アーサーはいったん警戒を解いている。立香も、暑苦しいナポレオンと困惑する唯斗を面白そうに眺めていた。
「これは語らねばなるまいよ。メートルからも聞いている、唯斗、君も生粋の英雄オタクだと。ならば、君が知る騎士王や俊足、太陽王の話をぜひとも聞かせてもらいたい。と思ってメートルに声をかけたところ、お近づきになりたいと曲解されてしまったわけだ」
「あんたなら言いかねないっていうか…まぁ、そうそう俺にそんなん思うヤツも…うん」
いるにはいるため、それ以上はぼかして言ったが、ナポレオンは「ふむ」と手を顎に当てて、腰を屈めてこちらに視線を近づけた。
精悍な男前が目の前に迫る。
「…?」
「…まぁ、そうだな。抱けるかどうかと聞かれれば、答えはouiだ。惜しい、君の性別が違うか、せめて騎士王とすでにデキていなければ、あるいは……」
「何を言っているのかな?」
アーサーは冷えた声でけん制する。ナポレオンは分かっていたように姿勢を戻して肩を竦めた。
「英雄色を好む、なんてものじゃない。もっとドロドロしたもんだな、騎士王の愛ってのは。はは、気をつけろよ少年、そのレベルの愛情を複数の英霊に向けられちまったら、元の世界に戻れなくなるぞ」
「もう遅いよナポレオン…」
その忠告に、立香が少し呆れたような声で答えた。愛の国の皇帝は、立香の短いそれだけの言葉から唯斗の状況を理解して、初めて、同情するような目を向けてきた。