長編番外編−不寝番争い
中国異聞帯後
不寝番を巡り争う鯖たち
コヤンスカヤがカルデアに侵入し、立香とゴルドルフが危うく毒殺されかけたことをきっかけに中国異聞帯に向かう羽目になった一件以来、カルデアではマスター二人の身の安全を最大化するために、サーヴァントによる不寝番を設けることになった。
また、夢の中で特異点などに飛ばされることがある立香にいち早く気づくため、という目的もある。
立香については希望するサーヴァントによる交代制がとられることになり、清姫や頼光、静謐などが回数を増やすよう要求してきたのを宥めたことはあったが、それ以外は特に問題なく決まった。
一方、なぜかこじれたのは唯斗の方だ。
本来的には、唯斗の不寝番はあまり効果がない。夢の中で連れていかれるということがない上に、恋人であるアーサーが四六時中一緒にいるためだ。
しかし、この不寝番を交代で行う制度を利用して、唯斗と一緒にいる時間を過ごそうと画策した他のサーヴァントたちによる、アーサーとの熾烈な争いが発生することになってしまった。
民主主義的に話し合いで決めよう、と前近代の英霊ばかりの唯斗のサーヴァントたちにダ・ヴィンチが呆れながら呼びかけて、今、会議室で英霊たちが集まっている。
唯斗のサーヴァントたちのうち、不寝番を希望しているのはアーサーのほか、ガウェイン、エミヤ、アーラシュ、ディルムッド、アキレウス、サンソンだ。四角く長机が置かれた会議室に、英霊たちが並んで相対するように座っている。
古代王二人は当然いないとして、長可も「そのまま食っちまうからなァ俺ァよォ」と豪快に笑っていた。むしろ不寝番による警戒が必要な相手の一人だ。
ダ・ヴィンチは、「痴情の縺れは管制室の業務外だよ〜」と言ってここには来ておらず、唯斗が自分で解決しろとのお達しだった。
どうしたものかと困っている唯斗に代わって、アーサーが口火を切った。
「そもそも恋人である私以外が、マスターと夜を共に過ごすこと自体、ナンセンスだろう」
「やっぱり話し合いじゃケリつかねぇよなぁ?」
それに対して真っ先にアキレウスが口元を怒りで引きつらせながら答えた。話し合いのはずが、初手で決裂である。
「いや、議論紛糾RTAじゃねぇんだから…」
唯斗は慌ててなだめようとしたが、今度はアーラシュが人好きのする笑みで口を開く。
「俺はイリアスの俊足に同意だぜ。セイバーを分からせてやればいいんだろ?」
「私も賛成だ。むろん、私は話し合いで解決できると自負しているが、君たちのような粗野な英霊たちでは難しい話だろう」
同じ相性有利同士、アーラシュにエミヤも同意を示したものの、いつもの皮肉交じりのため、どちらかと言うと全員を敵に回している。
それに対して、ディルムッドも自身の意見を述べる。
「なんであれ、己が力を示してこそでしょう。この役目はマスターを夜通しお守りするための重要な大役、実力をもって決するべきかと」
堅苦しいが結局は脳筋発言である。エミヤの皮肉も気にしていないのは、特に考えていないからか。
ただ、残る2騎に期待する。ガウェインとサンソン、理知的な英霊だ。
「異世界の我が王、お言葉ですが。ただおひとりでの不寝番を続けるというのは、いくら王といえど思わぬ油断やミスを誘発するものです。定期的に別の人物の目が入ることで、気づけることもありましょう」
「ガウェイン卿の言う通りだ。僕は医者ではないけれど、マスターの健康管理を第二特異点からずっと行ってきた。定期的に僕の目が入ることで、マスターの体調の変化に気づけることもあるだろう」
期待通り、ガウェインとサンソンは実に論理的に諭した。アーサーも、二人の正論に言葉を詰まらせる。
そう、アーサーはただ恋人だからという理由だが、ガウェインとサンソンは不寝番というものの本来の役割から攻めた格好だ。ディルムッドもその線での発言だったものの、結局脳筋だったため力がなかった。
「ただ、医者の目さえあればいいだろうからね。騎士王が基本的にマスターについているとして、定期的に僕が入れば十分だろう」
「それでは私の危惧する油断への対応ができません。せめて私とサンソン殿がよろしいでしょう」
「やっぱ
戦るしかねぇな!!」
しかし、サンソンとガウェインは自分の回数を増やそうとそんな方向に話を進め始めた。アキレウスはやはり戦うしかないと槍を出現させる。
ただ、アーサーもただでは論破される気はないらしい。
「それなら、毎日私が一緒にいるとして、君たちも追加で入ればいい。なに、不寝番が一人でなければならない理由はないし、むしろ多いに越したことはないんじゃないかい?」
ここに来てさらに正論である。反論のしようがないアーサーの勝ち誇ったような意見に、全員押し黙る。
ただ、毎日二人も三人もいられたら唯斗が堪ったものではない。
「今回はアーサーの部屋も俺の隣にあるんだし、別に週一でアーサー以外のヤツが不寝番でもいいだろ。なんかあれば隣の部屋からすぐ来られる。つーことで、毎週水曜日はアーサー以外のサーヴァントが担当、順番は今週の水曜から、召喚された順。いいな」
もういい加減に面倒なので、唯斗から裁決を下す。アーラシュは「週三でよくねェか?」と食い下がったが、唯斗はじろりとそちらを見遣る。
「い、い、な?」
「…分かった分かった、マスターの指示とあらば仕方ねぇ!」
アーラシュは降参ポーズをとったため、ようやくこれで結審となる。
アーサーは少し不服そうだったが、きっと、唯斗がたまには英霊たちと二人で話したいというのを汲んでくれているのだろう。事実、アーサーは隣の部屋のため、何かあればすぐに駆け付けられる。
一週間に一度、という低い頻度なのも、唯斗がそれだけアーサーと同じベッドにいたいという密かな意思の表れなのだが、これは恥ずかしすぎるため、胸にしまっておくことにした。