長編番外編−プレゼント


「沈殿する澱み」後
クリスマスプレゼントをもらう主


無事にクリスマスプレゼントが解放されて、カルデアのクリスマスも終わりに近づいていた頃、食堂で食後のアイスを食べていた唯斗のところにカルナがやってきた。
一緒に食事をしていたアーサーとともに、いまだサンタ霊基のままであるカルナの持っている大きなものに驚く。


「唯斗、待たせたな。お前へのクリスマスプレゼントだ」

「でかくね…?」


テーブルにドンと置かれたプレゼントの箱。赤いリボンでラッピングされた立方体は、50センチ尺だ。

先日のクリスマスでは、カルナはアルジュナ・オルタのアドバイスに従い、唯斗へのプレゼントを自分で考えると言ってくれていた。カルナからもらえたものであればなんであれ嬉しいだろう、というアルジュナ・オルタの推測通りであるが、サイズの大きさに少し怖くなる。この施しの英雄が何をくれるのか、恐ろしさすらあった。


「あー…開けていいか?」

「もちろんだ」


カルナに了承されて、唯斗はリボンを解いて箱を開ける。
思えば、こんな風にクリスマスプレゼントの箱を空ける日が来るとは思わなかった。自分には、生涯にわたって縁がないと思っていた。

箱は、蓋を開けて四隅の留め具を外せば完全に展開するようになっていた。数学の展開図を思い出す。
立方体の箱を大きく開くと、中からは金銀財宝の類ではなく、何やら模型が姿を現した。

地形模型のようで、緑の生い茂った大地に、二つの川が流れている。川の間には町らしきものも見えた。

そして、同じく地面の上には、赤と黄色に色分けされた凸型の駒が置いてあり、サンスクリット語で小さく名前がついている。


「…これ、ひょっとして、クルクシェートラの戦いの戦力配置図、とかか?」

「正解だ。いろいろと迷ったが、お前を恐縮させてしまうようなものは却って良くない、とアシュヴァッターマンにアドバイスを受けた。結果、アシュヴァッターマンとアルジュナの協力のもと、これを作り上げた」

「すげ、当事者たちの言う通りならこれが正史だもんな。こっちがヤムナー川でこっちはガガー川、真ん中はテインザーとハルシャカティラだな。サンスクリット語は、騎兵と歩兵、象兵…なるほど……」


唯斗は身を乗り出して模型を吟味してしまった。どのような意図で兵力を配置したのか、手に取るようにわかる。当時の地形を反映しているからか、現代のハリヤーナー州からパンジャーブ州にかけての地形とはやや異なるが、イメージはついた。
それを見ていたカルナは優しく微笑む。


「喜んでくれたようで良かった。なんでも喜ぶだろう、とは言われていたが、だからと言ってお前が欲しいと思えるものでなくてはならない。本来ならこの甲冑を削ることも考えていたが、アシュヴァッターマンとアルジュナに止められてな」

「止めてくれてよかった」

「しかし、模型があるだけでは嵩張るだけだろう。そこで、俺は無形のものを添えて完成させることにした」

「無形のもの?」


体を椅子に戻してカルナを見上げると、カルナは頷いて後ろを振り返る。すると、そこに大柄な男と白い清廉な男、二人の弓兵が現れた。
アシュヴァッターマンとアルジュナだ。


「えっ」

「この男と好き好んであの戦いを振り返る私ではありませんが、あなたへのプレゼント、ということであれば手を貸さないわけにはいきません」

「なかなか面白ェ機会じゃねェか!」


なんと、カルナはアシュヴァッターマン、アルジュナとともに、実際の当時の戦闘経過を説明してくれるらしい。無形というのは、つまり情報のことだ。情報を付帯させることで、真にこの模型が意味を成す。


「い、いいのか、そんな贅沢な…」

「これが贅沢っつー感性はぶっちゃけ理解できねぇけどよ、まぁそれなりに楽しそうだとは思ってるぜ」

「…そうですね。今ならこうする、という自身の成長にも寄与するものです。悪い話とは思っていませんよ」

「と、いうことだ。これで満足してもらえるだろうか」

「当たり前だろ、うわ、めちゃくちゃ嬉しい…!」


マハーバーラタの研究者が聞いたら卒倒するような機会だろう。思わぬ僥倖だ。向かいに座るアーサーも優しく微笑む。


「よかったね、マスター」

「うん、クリスマスプレゼントってのも、いいもんだな」


プレゼントとして用意された機会、と考えると少し気恥ずかしい気もしたが、カルナは笑って唯斗の頭をぽん、と撫でる。


「それならサンタ冥利に尽きるというものだ」

「よし、じゃあ茶でも用意してくる」

「不要だマスター。話は聞かせてもらった」


いそいそと茶でも用意しようとしたが、その前に、テーブルにトレーが置かれる。紅茶を持ってきたのはエミヤだった。


「貴重な機会だ、同席しても?」

「もう座ってんじゃん…」


エミヤは唯斗の左隣に腰かける。カルナは右側に、アシュヴァッターマンはカルナの向かい、アーサーの左隣に腰かけて、アルジュナもその隣に座った。

そうして始まったクルクシェートラの戦いの振り返りは、話を聞きつけたジークや陳宮、孔明、アレキサンダー、ガウェインとランスロット、シグルドなども集まってきて盛大なものとなり、今ならどうするなど戦略に関する議論が白熱する結果となった。

遠巻きに女性陣が「男ってやつは」という目で見ていたというが、古今東西の英霊たちとこんな時間を過ごせたこと、それが一番のプレゼントだろう。



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