長編番外編−言葉よりも雄弁な


「沈殿する澱み」後
ジュナオに甘い主


クリスマスのヴリトラを巡る特異点探索も終了し、いよいよ年末という頃、今年最後の小特異点の探索ということで唯斗は管制室へ向かっていた。
今日のレイシフトメンバーはアーラシュと長可と決まっており、大した規模でもないため、いつも通り臨むつもりだ。

しかしふと、唯斗はすっかり見慣れてしまった背後のサーヴァントにアサインされていないことを言っておかなければと気づく。

ここのところずっと一緒に行動していた、アルジュナ・オルタだ。

背後をずっとふよふよと浮かんでついてきていたここ数週間、その神性を落とす再臨を経てもなお、こうして唯斗の背後を陣取っている。
恐らくアルジュナ・オルタもつい癖になってしまってのことだろう。これまで、特に目的地をいちいち共有せずについてくるに任せていた。

唯斗はいったん立ち止まって後ろを振り返る。アルジュナ・オルタはきょとんとして見下ろした。


「あー、アルジュナ。俺これからレイシフトなんだけど、今日はアーラシュと長可とで行くから、アルジュナは留守番な」

「…失念していました。そう、ですね、つい、いつもの癖であなたについて行ってしまっていました」

「そんなところだろうとは思った」


アルジュナ・オルタはサーヴァントとしての在り方について、唯斗の傍で考えるために行動を共にしていた。しかし先日の特異点探索もあって、彼はすでにそれに結論を見出している。


「…思えば、もうマスターの後ろをずっとついて回る必要もありませんでした。申し訳ありません、お邪魔でしたね」

「別に邪魔とかそういうことはない。これからも好きにしてくれていいけど…」

「いえ。あなたはアーサー王と特別な関係だと聞いています。時間は有限です、マスターはマスターご自身の時間を、せめてカルデアにいる間は謳歌するべきでしょう。たまに、私もお供させてください」

「…うん、分かった」


本当に、アルジュナ・オルタは驚くほど人の世への理解が早くなった。いや、本来のアルジュナという英霊はこういう気遣いができる人物であったため、神性統合に際して失ったものを取り戻したというのが正しい。


「じゃあ俺そろそろ集合時間だから」

「はい、それでは」


なんであれ、カルデアでアルジュナ・オルタも好きに過ごしてくれればいい。唯斗の近くに来たいならいつでもそうしていいし、一人でいたいのなら一人でいていいのだ。
そう思いつつ、管制室に向かおうと踵を返そうとし、アルジュナ・オルタも同様に反対方向へ向かおうとしたときだった。

かくん、と唯斗の体は動きを止める。前につんのめるようになってしまったのは、唯斗の腰に絡みつく尻尾のせいだ。
猫や犬のそれとは違い、太くしっかりとしたその尻尾は、容易く唯斗の動きを静止する。

もう一度振り返ると、アルジュナ・オルタも驚いたように振り返っていた。恐らくアルジュナ・オルタも動けなくなって何事かと確かめたのだろう。

そして、アルジュナ・オルタの目線は尻尾に向かう。


「……どうした?」


一応問いかけると、途端に、アルジュナ・オルタは顔を僅かに赤らめた。


「あ、の、これは…その…申し訳ありません、完全に無意識でのことでして…」


どうやら、アルジュナ・オルタの尻尾が無意識に唯斗を引き留めてしまったらしい。さすがに、こうして赤面してしどろもどろになる様を見れば、アルジュナ・オルタが無意識に何を望んでいたのかなどすぐに分かってしまう。


「ここのところずっとお傍にいさせてもらえていたので、つい、その、名残惜しさというものが、無意識に発露してしまっていたようです…お恥ずかしいところをお見せしました…」


それを聞いてつい、唯斗は一歩踏み出すと、アルジュナ・オルタに正面から抱きついた。宙に浮いているため、胸元に顔が来るような位置だが、その胴に腕を回す。


「お前、それはずるいだろ……」

「マスター…?」

「あー…今日、お前も来る?」

「!よいのですか!」


これまでにないタイプだ、と思いつつ、唯斗はアルジュナ・オルタにそう声をかけてしまった。
一部始終をアルジュナに見られていようものなら、「甘やかさないでください!」と怒られそうだ。

なお、案の定、帰還後に報告を受けたアルジュナからはネチネチとお小言を二人揃ってもらうことになる。



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