覆水盆に返らず−3
第五特異点に向けてサーヴァントの数を集中的に増やす方針がダ・ヴィンチに告げられた唯斗は、サンソンに続きさらなる英霊召喚を試みることになった。
まだサンソンに拒絶されたときに感じた、ジクジクと胸の奥が痛むような感覚は残っているが、そんなことを理由に召喚しないわけにはいかない。
唯斗は召喚ルームにて、いつも通り新しいサーヴァントの召喚を始めた。
「ライダー、マンドリカルド。召喚に応じ参上したっす…じゃねぇよ、しました。ま、適当によろしくっす」
「……あぁ、オルランドシリーズの」
「よくパッと出てきたっすね…まぁ、そういうマイナー英霊なんで…」
マンドリカルドと名乗ったサーヴァントは、たびたび英霊たちをドン引きさせてきた唯斗の知識量であっても少し時間がかかった。
ただ、狂えるオルランドなどの作中で描かれる人物像とはかなり乖離している。サーヴァントになってから性格が変わる例はゼロではないため、そういう経緯だろうか、と内心で推測する。
だが、むしろそういう英霊の方が興味は沸く。記述の少ない人物だからこそ、直接話を聞いてみたいと思うものだろう。
サンソンのこともあったため、唯斗は少し気をつけながら、まずは形式的な挨拶と施設の案内に留め、少しずつ話しかけてみることにした。
そうして召喚から2週間、マンドリカルドは対キャスター戦闘で非常に強力であると分かり、優先的に再臨が行われている。
そんな中で、唯斗は意を決してマンドリカルドに話しかけてみることにした。
人の集まる食堂などの施設がある中央棟から離れた区画、パスを頼りになんとか見つけ出したマンドリカルドは、窓の外の暴風雪を見つめていた。
「マンドリカルド、」
「っ、マスターか。すんません、出撃っすか」
「や、そういうんじゃない」
マンドリカルドは唯斗に驚いて、すぐにレイシフトかと身構えたが、そうではないと聞いて首をかしげる。
「…?シミュレーターでもねぇってことっすか」
「訓練でもなくて…」
「……?」
本気で分からないという表情を浮かべるマンドリカルド。唯斗はどう言ったものか、と迷ったものの、こればかりは直接言ってしまうしか唯斗の能力でできることはないと腹をくくる。
「その…マンドリカルドと話してみたくて」
「…へっ、お、俺とっすか」
「うん」
マンドリカルドは素っ頓狂な声で驚いてから、あわあわと慌てだす。これで元は王だった人物とは信じられないような気がした。
「…えーと…俺でいいんすか?だいたい、こんな日陰はマスターが来るようなとこじゃねっすよ」
しかし、マンドリカルドはそう答えた。唯斗は呼吸が止まる。これはどう受け止めればいいのだろう。
いや、明確ではないだけで、これも拒絶の一種なのではないだろうか。
唯斗の貧弱なコミュニケーション能力では、マンドリカルドの意図するところは推測が難しい。だが、遠まわしに話したくない、というオブラートに包んだ表現かもしれないという可能性は思い至ることができた。
先ほどから挙動不審気味であるし、そもそも人と話すことが本来は好きではないのかもしれない。だからこんな辺鄙なところにいるのだとすれば説明がつく。
同時に、唯斗はまたも配慮に欠けた行動をとってしまったということになる。
「…悪い、気ぃ利かなかったな」
「あっ、いや!その…俺も…えと…すんません…マジで……」
「マンドリカルドが謝るようなことじゃない、俺が配慮なかっただけだ。悪かった」
「そ、そういうつもりじゃ……、ほんとすみません……」
サンソンに続き2度も配慮のない言動をしてしまうなど、さすがに自分が嫌になる。マンドリカルドには申し訳ないことをしてしまった。
互いに極めて気まずい空気の中で頭を下げあって、唯斗は「それじゃ…」とだけ言ってその場を後にする。
おおよそ人間として必要なコミュニケーションを一切取ってこなかった唯斗が、今更サーヴァントと話をしてみたい、などと思ったこと自体、少し分不相応だったのだろう。