覆水盆に返らず−4


サンソンとマンドリカルドの件が立て続けに起きたことで、唯斗はすっかり積極的にコミュニケーションを取ろうとする勇気をなくしてしまった。
無意識にかなり気を張って挑んでいたらしく、もう一度トライするにはあまりに気力が削られていた。

二人に対してコミュニケーションが不発になった件について、唯斗は特に誰かに言うつもりはなかったのだが、意図せずして話す機会がやってきた。


「そういや、この前来たランスロット卿とは話せたんです?」


レイシフト中、そう切り出したのはロビンだった。現在、食料調達のために天草、ロビンとともにフランス特異点に派生する微小特異点にやってきている。
再臨素材を確保するためにはエネミーとの戦闘が避けられないが、食料調達はそこまで厳しいものではない。天草は素材になるエネミーがいたとき用の戦闘要員であり、主にロビンが交渉によって食料調達を行っている。

街に向かいながらの道中、ロビンに尋ねられて、唯斗はこの前やってきたばかりの円卓の騎士、ランスロットについて考える。

フランスで生きた者にとって、円卓の騎士といえばランスロットだ。ときにアーサー王すら凌ぐほど美化されているのは、彼がフランスの騎士だからに他ならない。
とりわけ、唯斗はフランスにおけるアーサー王伝説の中心地、ブルターニュの人間だ。ランスロットと話してみたいという気持ちはひとしおであったし、以前にも会ってみたい英霊の話でランスロットの名を挙げていた。


「…いや、当日の挨拶と施設の案内くらいで、プライベートな会話は一切してない」

「へぇ、意外ですねぇ。円卓の騎士っつーんなら、後世のファンに当たり障りない話くらいするもんだと思ってましたけど」

「マスターも最近はいろんな英霊と会話できているのですから、話しかけてみては?」


ロビンと天草にそう言われ、唯斗は隠すこともないかと、先日の話を打ち明けることにした。


「実はさ、サンソンとマンドリカルドにそれで不愉快な思いさせちゃって。やっぱ俺にはハードル高いなって思ってためらうんだ」

「マスター相手に不愉快に思う相手とかいるかぁ〜?お前さん、基本的に相手のことめちゃくちゃ考えて話してるから、不愉快になるようなことはないと思いますけどね」

「私もロビンに同意します。あなたの誠意を感じ取れないような二人には見えませんでしたが…」


買い被りだ、と思いつつ、唯斗はことの経緯をもう少し説明した。
サンソンには処刑人という出自への配慮が足りなかったこと、マンドリカルドには人との交流を望んでいないことを察することができなかったことを話したが、ロビンは呆れたようにする。


「いや、それどう考えてもあいつらのが悪いっしょ。二人ともそれなりに生きてたはずだろ、サーヴァントである以前に大人としてどうなんだって話ですよ」

「その通りです。マスターのせいではありません」

「…そうか?なんかもう、よく分からない。ずっと、一言も発しないまま一日が終わるような日常だったし」

「大丈夫ですよ、その二人は少しイレギュラーだっただけです。ランスロットは名の知れた円卓の騎士、マスターを無下にするようなことはありません」


ロビンと天草にそう励まされ、唯斗はもう一度、話してみたいという気持ちが沸き上がるのを感じた。やはり、フランスに生きた者として、ランスロットと少しでもいいから会話をしてみたい。
その気持ちを抱くようになったこと自体、グランドオーダーで唯斗が成長したことと言ってもいい。ならば、それを大切にしてもいいのかもしれない。



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