覆水盆に返らず−10


第六特異点の探査に向けて、唯斗は再びサーヴァントの集中召喚を指示された。

天草の一件以来、唯斗はサーヴァントたちとの不要な接触を極力避けている。余計な会話はしないし、業務上不要なコミュニケーションも一切取らない。
それでも、ロビンやランサーたちは唯斗に話しかけようとしてくれる。その優しさは素直に嬉しいし、それを受け取れないことへの罪悪感もあるが、唯斗はすべて煩わしくて、すべてを拒否している。

エミヤからそそくさと食事を受け取っては自室で食べて、さっさと返却したらまた自室に戻る。訓練やレイシフトはしっかりこなすが、今までのような道中の会話などはしていない。

その必要がない、マンドリカルドやヘラクレス、アサシン・エミヤなどの英霊たちとのレイシフト機会が飛躍的に増えた。

ロマニは相変わらず唯斗を心配しているが、特に何も言ってこない。任務はすべてきっちりこなしているため、深く関わって干渉する気はないのだろう。そういう尊重の仕方が、唯斗にはありがたかった。

余分なコミュニケーションが不要な相手が来るといい、そう思いながら召喚ルームで召喚を行うと、意外な人物が現れた。


「召喚に応じ参上した。…なんだ、俺の色がお前に関係あるのか?」


なんと、アメリカで魔神柱となっていたクー・フーリン・オルタが召喚に応じたのだ。もともとメイヴが聖杯に願って生み出された特殊な霊基だったはずだが、カルデアではそんな縁まで召喚できるらしい。
少し警戒しつつも、唯斗はとりあえず確認だけする。


「…召喚に応じたってことは、人理修復のために力を貸してくれるってことでいいんだな」

「その認識で間違いない。なんであれ俺はお前の槍だ、殺すべきものを示せ。それだけでいい」


オルタのその言葉で、唯斗は一気に警戒を解いた。それどころか、とても良いサーヴァントが来たと安堵する。
アサシン・エミヤ寄りの英霊、つまり、余計な会話が不要な相手だ。


「助かる。敵を倒す、特異点を修復する、必要なリソースを得る。それ以外は不要だ、どうでもいい」

「…ほう、アメリカで出会ったときよりも、随分と『親しみやすい』様子に変わったな」

「目が覚めた、それだけだ。再臨素材を確認して、今日のうちにできるところまでやっておく。施設の案内は必要ないよな」

「不要だ。再臨のときに呼び出せ」

「あぁ」


簡素な会話ですべて片付いた。実に理想的だと思う反面、皮肉なものだと思う。
この状態でサンソンたちと出会っていれば、不愉快な思いをさせずに済んだのだ。そういう意味でも、やはり以前まで唯斗が持っていたものは不要なものだったのだろう。



その日のうちに最終段階まで再臨を済ませてから一週間、唯斗とオルタは第五特異点の余波で生じた小特異点にレイシフトしていたが、ロマニの情けない『ごめーん!』という通信にそれぞれ苛立ちながら走っていた。

事前の観測よりもずっと、ケルト兵やワイバーンの数が多く、もはや戦争状態と言っていいほどの大軍が二人に迫っていた。
役に立たないカルデアは放っておいて、唯斗は冷静に敵の数と方向を確認する。とりあえずの指示を出そうとして、先にオルタが口を開いた。


「おい、俺が引き受けるからお前は先に走って逃げろ。強化してんなら距離を取れるはずだ」

「…合理的じゃないな。お前、生き残れるのか」

「使い捨ての兵器が生き残る必要はあるか?」


走りながら尋ねると、オルタは自分を使い捨ての兵器だと述べた。その言葉に、思わず苦笑してしまった。唯斗が自分で言っていることと同じだったからだ。
久しぶりに表情筋が緩んで頬が少し痛んだほどだ。オルタはその様子を見て眉をひそめる。


「…お前笑えるのか」

「1か月ぶりくらいに笑った。あのな、オルタ。お前が兵器なら、俺は人類最後のマスターという機構だ。この特異点で俺が生き残るには、今この場だけを切り抜ければいいわけじゃない。このあともまだ戦闘が控えている状況で、お前というパーツを失うわけにはいかないんだ。わかるな、他にサーヴァントがいたり一時召喚したりできるならまだしも、今はそうじゃない以上、俺とお前は互いに替えの利かない歯車なんだよ。悪いがもう少し、歯車として回ってもらう必要があるし、俺もそうしなきゃいけない」


唯斗が生き残ること、それが大前提だ。そのためにオルタという存在は必要不可欠だ。互いに機構である以上、その機能を果たすことが求められている。
オルタは正面に視線を戻す。


「…フン、一理あるな。それならば一秒が惜しい、お前を担ぐ。掴まってろ」

「……へっ、」


そしてそう言うなり、オルタは唯斗を抱きかかえた。軽々とその左腕に抱きかかえられ、オルタは右手に槍を持ったままさらにスピードを上げて走り出す。
咄嗟に唯斗は太い首元に掴まってバランスを保つ。


「いてて、なんか棘当たってんだけど!配慮しろ配慮!」

「チッ、この俺に文句とはな」


オルタはそう言いつつも、腕の棘を消してくれた。これで痛みはなくなる。なんだかんだ、この男もクー・フーリンなのだということに、今更思い至ったような気がした。



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