覆水盆に返らず−12


翌日、特異点の発生原因と思しき洞窟にやってきた。
通信から、シャドウサーヴァントと考えられる高魔力体も確認されている。本来、このレイシフトはオルタの性能確認と訓練を兼ねていたのに、本格的な探索になってしまった。


「じゃあ俺が駆逐してくるから、お前は外で待ってろ」

「は?単騎で行くつもりか?いやそうなるのは仕方ないけど…援護はいらないって言いたいわけだな」

「当然だ。正規魔術師でもないお前の援護は不要だ、邪魔だから外にいろ」

「それでオルタが戦闘不能になったら?この特異点修復するまで帰還できねぇんだけど」

「カルデアがなんとかするだろ、無理にでも。これが最後の戦闘なんだ、結果は変わらねぇさ」


こちらの話も聞かず、オルタはそう言って洞窟に飛び込んでいってしまった。唯斗はため息をついて通信のロマニに尋ねる。


「おい、増援とかできんのか」

『……もしもオルタが戦闘不能になったら、1騎くらいは追加レイシフトできるかもしれないけど…正直、確証はない』

「あ、そ」


唯斗はもう一度ため息をついてから、外まで激しい戦闘音が聞こえてきた洞窟の中を覗き込む。暗視の魔術で中を窺えば、かなり奥深くまで続いているようだった。
その一方、壁をサバイバルナイフで抉ってみれば、すぐにボロボロと崩れる。最悪、洞窟のあるこの巨大な岩塊ごと崩れそうだ。

唯斗は仕方なく、洞窟の中を進み始める。オルタはいい顔をしないだろうが、彼の矜持よりこちらの生存の方が重要だ。いや、矜持というよりは在り方だろう。兵器として存在するというその意思がある限り、自律型兵器として行動し続ける。

洞窟の奥に進むと、シャドウサーヴァントによるものだろう、衝撃波や光線によって壁が抉られ、ひっきりなしに天井から砂が舞い落ちてきていた。

そして、オルタは見るからにボロボロになっていた。体中から血を流し、口元からも喀血のあとが見える。シャドウサーヴァントは2騎、ただでさえ暗い洞窟内で、もはや輪郭もあいまいだ。暗視ができなければ、そもそもどこにいるかすら分からなかっただろう。

そこに、シャドウサーヴァントの剣がオルタに向かってまっすぐ振り下ろされた。目にも止まらぬ速さでオルタに突っ込んだ剣を、とっさに唯斗は結界で弾く。
続けてもう1騎から放たれたいくつもの光線を防ぐため、唯斗はオルタの隣に跳躍して着地すると、より強度な結界を展開する。


我らを試みにあわせず、悪より救いだし給え(ハ ノン レジット ケット ダ ヴォント ガント アン テンプタデュール)


二人を覆うドーム状の結界によって、光線はすべて弾かれる。
唯斗の右側に立つオルタは、こちらをじとりと見下ろした。


「なぜ来た。俺は邪魔だから待っていろと言ったはずだ」

「俺という機構が機能するためだ。俺には人類最後のマスターであるということ以外に存在価値なんてない。ただ人理を修復するための最終防衛装置…それだけだ。だから、生き残る必要がある。俺が生き残る可能性を最大化するためには、お前にここで死なれるわけにはいかない」

「なら、お前に代わりがいるなら死んでもよかったか?」

「差し支えはないけど、でも現状そうじゃない、残念ながらな。特に死にたくないわけじゃないけど、生きなきゃならない理由はあるんだ」


唯斗は結界を維持することで、もともと疲労が蓄積していたために頭がくらくらとしてくるのを感じた。この結界は非常に高度なのだ。しかし、間断なく攻撃が結界にぶつけられており、止めるわけにはいかない。



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