覆水盆に返らず−14
オルタが来てからというもの、唯斗は大半のレイシフトでオルタを伴うようになった。面倒がないのはもちろんだが、やはりあの特異点での過酷な経験と、守り抜いてくれたオルタへの信頼もある。
正直オルタ一人でもいいのでは、と思った唯斗だったが、バーサーカーはダメージを受けやすい性質のため、もう少し召喚しておいた方がいいとロマニに言われ、仕方なく唯斗は再び召喚ルームにやってきた。
現在の主力はオルタのほか、アサシン・エミヤ、ヘラクレス、メディアなどだ。当然、そのアサイン理由は喋らなくて済むからである。
最近はそんな唯斗に配慮して、エミヤやキャスター、ランサー、バーソロミューも唯斗に対して不必要に話しかけなくなっていて、その代わりレイシフトに連れていくよう申請されていた。「考えておく」とだけ返した唯斗だったが、やはりすでに再臨や能力の開放を行った者たちはすぐに戦える状態であるため、出てもらえればそれはそれで助かる場面も多い。
しかし、それでも元来の優しさは健在で、不要な会話こそしてこないものの、ロビンなども含めよく世話を焼こうとしてくれる。
そんな優しさも配慮も、正直、唯斗には煩わしい。
優しくされればされるほど、それに返せない自分が、それを受け取るべきではない自分が嫌になる。
戦闘以外では放っておいてほしい、なんてことを言うこともできず、中途半端な状態でいる自分のことが一番、煩わしくて不愉快だ。
そんな気分になるのが嫌で、やはりオルタのように余計な会話のいらない人物が来てくれればいい、と思いながら召喚を実行する。
「ディオスクロイ、現界した……何だ人間ではないか。つまらん!死ね!」
「死ななくて結構です。我らディオスクロイ、お力になりましょう」
なんと、現れたのはディオスクロイ。ふたご座の神として知られる、ギリシア神話の神性だ。金髪に青銅の髪飾り、チュニックを基本としたギリシアの衣服。神霊の召喚は初めてではないカルデアだが、神格という点では極めて上位の存在だ。
思わずポカンとしてしまったが、慌てて唯斗は名乗る。
「わ、悪い、びっくりして。まさかあのふたご座の神が来るとは…俺は雨宮唯斗、一応、人類最後のマスターなんてやってる」
「フン、人理は燃え尽きたというではないか。フハハハ!ざまあないな!人理など滅ぶに任せておけ」
「兄様、いけません。滅ぼさせませんよ」
どうやら兄カストロは、あからさまに人類を憎んでいるようだ。そして、ポルクスは妹として現界しているらしい。性別も、カルデアではめちゃくちゃな新事実が次々と明らかになっているため、この際どうでもいい。
「その、俺の学んだことが正しければだけど。ディオスクロイは、インド=ヨーロッパ祖語の文明圏における極めて古い神性、馬を走らせ、治癒の力を持ち、海における救いの手であり、星に由来するすべての双子神の中でも一番信仰が厚かった神性だよな。ギリシアに生まれた存在じゃなく、インド・イラン共通時代に遡る神格の一柱…そういう理解であってるか?」
「ほう、弁えてはいるようだな人間」
「ご認識の通りです、マスター。我らディオスクロイ、もとはオリュンポス十二神よりも先に大陸に神性を得ていたものです。のちにゼウス神の子として召し上げられ…」
ポルクスはそこで言葉を止める。さすが双子というべきか、同じタイミングでカストロは忌々し気に表情を歪めた。
「そうだ。その後我らは、神話の中で、信仰の変化の中で、神から人間に零落した!ポルクスは半神として、俺は人間として!なんたる不遜、不敬!」
カストロが開口一番に罵倒を浴びせてきたのは、信仰の変遷によって人の子として神話が形成されてしまったからだ。その零落を恨み、彼はアヴェンジャーとしての性質を持って現界している。
ただ、唯斗としてはそれはそれで都合が良かった。ポルクスはカストロより神性を高く維持しているため、女神としての性質が濃いのだろう、丁寧で唯斗に優しい表情を向けているし、カストロにフォローしているが、深くこちらに関わることは決してしない。あくまで、あまねく人類の一人としてしか唯斗を扱わないだろう。
カストロは言わずもがな、人間という忌むべき存在である唯斗に優しさを向けるはずがない。
オルタに続き、高位かつ都合の良いサーヴァントがやってきた形だ。とはいえ、唯斗としては、嫌われているままでいいものの、ひとつだけ言っておこうと口を開く。