覆水盆に返らず−16


第六特異点、キャメロットの王城にて、唯斗はガウェインを前に息を切らしていた。

厳しい戦闘の連続となった第六特異点にて、いよいよカルデアはキャメロット攻略作戦を開始し、そして、円卓の騎士ガウェインと対峙した。
獅子王によって強化された円卓の騎士を前に苦戦した唯斗は、現在、オルタ、ディオスクロイ、ロビン、天草、マシュの5騎を残して、令呪も残り1画となっていた。

唯斗自身、フォローのために魔術を多く行使したため、魔力欠乏がひどい。

サーヴァントたちもボロボロだ。オルタは頭からも腹からも血を流して退去寸前、ロビンも全身に火傷を負いながらボウガンをフラフラしながら構えている。
天草は左手が動かなくなって右手だけで黒鍵を使っており、カストロは攻撃を受け続けて全身にやけどと裂傷を負っている。ポルクスも満身創痍だが、攻撃は主にカストロが受けていた。

ガウェインは再び宝具を開放する。その莫大な炎が放たれ、マシュは唯斗を守って前に立つも、宝具の展開には至らない。
唯斗はそこで、再び結界を展開した。


我らを試みにあわせず、悪より救いだし給え(ハ ノン レジット ケット ダ ヴォント ガント アン テンプタデュール)


なんとかギリギリで間に合ったが、ずきりと魔術回路に痛みが走る。


「ぐ…ッ!」

「唯斗さん!」


マシュは守られたことに気づいて、悲痛な声で呼びかける。一同を取り囲むドーム状の結界によって、膨大な炎は防がれていたが、唯斗の左手から広がる魔術回路は極めて激しい痛みをもたらしていた。


「だ、いじょうぶだ…マシュ、オルタを庇いながら短距離攻撃。ディオスクロイは別方向から多段攻撃で相手に反撃の隙を与えないように…ロビンと天草は遠距離攻撃で、オルタとディオスクロイが距離を取ったらすぐ、ロビンは宝具解放」

「マスター、あんた無茶しすぎだ」

「今無茶しなかったら全員死ぬだろ」


ロビンは心配そうにするが、唯斗は短く返す。ガウェインの炎が途切れたのを確認して、結界を解いた。
同時に、マシュとオルタ、ディオスクロイが飛び出す。

大仰なオルタの攻撃に対して、ガウェインは俊敏に応戦するが、マシュがその大剣を受け止める。
一方、背後からはポルクスが迫り、ガウェインの背中から目に留まらぬ速さで何十発ものパンチを入れた。ガウェインがポルクスを遠ざけようとすると、カストロが盾で防いだ。
合間に天草がガウェインの頭上に黒鍵を出現させ射出。ロビンも矢を放ってガウェインの動きをけん制する。


「無駄です…ッ!」


しかし、ガウェインは炎を纏ったガラティーンを薙ぎ払い、ディオスクロイたちをまとめて吹き飛ばした。マシュも盾で初撃こそ防いだが、オルタもろとも弾かれる。
さらに、そのままこちらへと突進してきた。天草が日本刀を抜いて迎撃したが、数回の切り合いののち、膂力で押されて吹き飛ばされ、柱に激突する。

残るは唯斗とロビンとなるが、ロビンはまだ宝具解放の準備が整っていない。

大剣が迫り、ロビンが前に飛び出そうとしたが、それよりも先に、金髪が目の前に現れる。
甲高い金属音とともに、カストロが唯斗の目の前に立ってガウェインの剣を受け止めた。
踏ん張るカストロの足元は、大理石に亀裂が入っている。それほどの衝撃を全身で受けながら、アダマスの盾で聖剣を受け止めていた。


「神の造りし、アダマスの盾…フン、聖剣など、言うほどではないな」

「古き双神、ディオスクロイ・カストロ。神話通りの速さですね」


ガウェインはいったん剣を離すと、跳躍して距離を取る。ポルクスも戻ってきて唯斗を庇うように立ったが、二人とも、先ほどの攻撃で致命傷寸前の負傷をしていた。オルタや天草は立つことができていない。

ガウェインは、ディオスクロイ越しに唯斗に問いかけた。


「カルデアのマスター。あなたはなぜ、戦うのです。人理焼却はすでに決定的な事実。しかしあなたからは、『生きたい』という明確な意思を感じません。その先への希望を持っているようにも見えない。ではなぜ、それほどまでボロボロになりながらも戦うのですか」


さすがというべきか、短時間しか会っていないにも関わらず、ガウェインは唯斗の本質を見抜いていた。普通の人間であれば、死にたくないから、元の生活に戻りたいから、家族と会いたいから、といった理由があるだろう。
しかし、唯斗がそういうものを持っているようには見えていない。当然だ、事実、そんなものはない。


「…お前の言う通り、俺には、俺の帰りを待つ家族も友人もいない。この世界に、俺の居場所なんてない。人理修復を成し遂げたとしても、一歩カルデアを出て元の生活に戻れば、ただの出来損ないに過ぎない。正直、滅びるならそれはそれで運命だとも思う」

「マスター…」


ディオスクロイは少し驚いたようにそろって唯斗を振り返る。ロビンや、離れた場所に倒れる天草、オルタ、マシュも心配そうに唯斗を見つめていた。きっと、管制室ではもっと多くのスタッフや心配性のサーヴァントがこれを聞いていることだろう。


「もし代わりがいたなら、俺はここであんたを、自分の身を犠牲にしてでも引き留めた。でも、代わりはいないから生き残らないといけない。スペア機材がないから、俺は替えが効かなくて…でも、俺でなければならない理由だってない」



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