覆水盆に返らず−18


最も過酷な旅となった第六特異点も無事に修復し、唯斗はカルデアに帰還した。
疲弊しきっていたこともあり、しばらくは医務室で治療に専念したが、3日ほどで自室に戻れるようになる。
同時に、第七特異点が神代メソポタミアと判明したことから、スタッフたちは座標の特定に、唯斗はさらなる召喚に勤しむことが決まる。

怪我こそ治っているが、さすがに自室と食堂を何度も往復するのが煩わしかった唯斗は、仕方なく、当面は食堂内で食事をとることにした。
カウンターでトレーを受け取り、隅の席に座る。

英霊たちが多くいる場所で食事をするのが久しぶりで、唯斗は復帰したてということもあって食欲が沸かず、サンドウィッチなどの軽食で済ませている。
サーヴァントたちは配慮してくれているのか、唯斗にわざわざ話しかけようとはしない。いや、視線や気配は感じるため、かなり様子を見られているのはさすがに唯斗でも感じ取れた。

そんな心配されるような立場ではないのに、と思いつつサンドウィッチを食べていると、食堂に新たにサーヴァントたちが入ってきた。
ガウェイン、トリスタン、ランスロット、ベディヴィエールという円卓の騎士たちだ。ランスロット以外は、昨日の召喚でやってきた。特にベディヴィエールは、第六特異点での功績が座に認められ、英霊として召喚されるようになったことから、第六特異点での記憶を有している。

円卓が揃ったからだろう、楽しげに話している。特異点では敵だったものの、それでも騎士としての本質は損なっていなかった彼らが、今回はきちんと英霊として現界している。それは唯斗にとっても嬉しいことだった。唯斗がいないところでは、羽を伸ばしてかつてのような語らいを楽しんでくれればいい。

目を逸らして食事に戻ると、こちらに気づいたガウェインが、金属の踵の音を響かせながらやってきた。少しランスロットが慌てた様子だったが、昨日来たばかりのガウェインたちには、唯斗が一人でいようとすることをまだ知らない。
いや、召喚時点で「任務や戦いに関係のない不要な会話はしない」と言ってあったため、恐らくは単なる挨拶だろう。確かに、食事の席である食堂において、マスターに挨拶もせず食事を開始するような人物ではない。


「おはようございます、マスター。無事に快調されたとのこと、喜ばしい限りです」

「…おはよ。もう聞いてると思うけど、物資のことは気にしなくていい。自由に食事してくれていいからな。あと、わざわざ挨拶とか、堅苦しい儀礼もしないで、楽に過ごしてくれ」


遠まわしに、いちいち話しかけるなと伝えたつもりだったが、ガウェインはにこりとして、「よければご一緒しても?」と尋ねてきた。
うまく伝わらなかったのか、それともこの男のメンタルが鋼鉄なのか、唯斗は判断がつかず微妙な顔をしてしまった。

ただ、唯斗のトレーにあるサンドウィッチはあともう2きれだ、すぐに食べ終わる。適用に頷いて、とっとと食べて席を立とうと算段をつけた。


「…別にいいけど、食べ終わったらすぐ離れるからな」

「お忙しいことは承知の上です、ありがとうございますマスター」


また笑顔を向けたガウェインは、トリスタンたちと食事のトレーを取りに行く。その間にもう一つ食べたため、あと一つとなる。しかし、すでに満腹だった唯斗にとっては、その最後の一つが厳しい。

すぐ戻ってきた騎士たちは、唯斗の向かいに腰を下ろす。ベディヴィエールだけ、唯斗の隣に着席した。
終始顔が引きつっていたランスロットは、なんとか立て直したのか、余所行きの笑顔で唯斗に声をかける。


「そ、それにしてもマスター。こうして円卓の騎士たちが揃うとは、昔を思い出して懐かしくも心強くあります。このような機会をいただきありがとうございます」

「…、ランスロットが笑ってるとこ初めて見た」



prev next
back
表紙に戻る