覆水盆に返らず−20
「え、オルタ…?」
「そこの太陽の騎士の言う通りだろうマスター。真面目さは美徳だが、行き過ぎればただの愚直だ。それを理解していない湖の騎士こそ出来損ないだろうが」
オルタは唯斗の正面まで来ると、高い位置から騎士たちを睥睨した。さらに、唯斗の腰を軽く抱き寄せて体を近づける。目の前にオルタの喉元が迫り、こうやってオルタの方から接近するとは思わず、目を白黒させる。
だが、聞き捨てならないことも言っていたため、とりあえず反論はしておく。
「ランスロットは出来損ないなんかじゃない、むしろ円卓最強の部類だからな。フランスの誇る騎士だぞ、ブルターニュ人からすればアーサー王より褒めそやすからな」
「…そういう思いを伝えたうえで距離を近づけようと努めたお前に、冷徹な態度を取ったのがそこの男だろう」
「……ランスロット卿?」
オルタの言葉を聞いて、ガウェインが固い声音でランスロットに問いかける。言葉はないが、どういうことだ、と追及する色だ。
オルタはため息をつくと、唯斗からトレーを奪い、そして唯斗の肩を抱いて歩き始める。もう用はないとばかりに、円卓の騎士たちには目もくれなかった。
しかし、ランスロットはオルタに連れられる唯斗の背中に声をかける。
「マスター、私は、」
それに対して、オルタが先に振り返ってランスロットを睨みつけた。
「うるせぇ黙れ。どうせ、バーサーカー単体宝具の俺と、セイバー単体宝具の双子神がいればお前の出番なんぞもはやないだろう。恥の上塗りをするくらいなら退去した方が身のためだ。それすらせずこいつを傷つけ余計な心労をかけさせるなら、俺がお前に引導を渡してやる」
本当にそれが最後だと決めたのだろう、オルタはいよいよ振り返らずに唯斗を連れて食堂の出口に向かう。トレーを適当に返却してから、食堂を出て居室区画に差し掛かるまでずっと、唯斗の肩を抱いたままだった。
静かな廊下にオルタと二人になり、ようやく息をつく。気分の悪さは、まだ残っているもののいくらかマシになった。無意識に緊張状態だったものが、和らいだ気がした。
「…ありがとな、オルタ。でも意外だった」
「俺が助け舟出したことがか?」
「……放っておくと思ってたし、そもそも食堂に来ないだろ」
オルタはそこで肩から手をどかしたが、唯斗は思い切って、自分からもう少しオルタに近づいてみる。
左腕がオルタの右腕に触れて、肩がオルタの太い二の腕にあたる。オルタはぴくりとしてから、今度は唯斗の腰に自身の右腕を添えて唯斗を抱き寄せた。
「キャスターの俺が呼んだんだよ。連れてってやれってな。面倒極まりなかったが…我らが主は、武器の整理が得意ではないらしいからな」
遠まわしに、不要なサーヴァントは切り捨てろと言っている。確かにオルタが先ほど言っていた通り、単純な攻撃手段として、オルタとディオスクロイによってランスロットの役割を果たすことはできるだろう。
だが、ランスロットにしかできないことも多くある。宝具の連続使用が良い例だ。
「まァいい。俺は役目を果たした。次は…そうだな、そこの双子神の役割だ」
「え…」
しばらく歩いたところで、オルタはおもむろに体を離して先に進み始めた。その速さは唯斗に合わせたものではなく、あっという間に離れていく。
切替が早すぎる、と思っていると、オルタに促された双子たちが現れた。
「食堂でのこと聞き及びました、マスター」
「斯様な人間の騎士など、疾く切り捨てればよいものを」
「我らがいれば十分でしょう」
「その通りだ人間。我らディオスクロイがいればセイバーはほかに不要」
様子を窺っていたらしいディオスクロイは、オルタがとっとと離れたことで代わりに唯斗の傍にやってくる。彼らも、食堂でのことを気にかけてくれていたようだ。