後悔先に立たず−3
斎藤の他にもやってきた何人かについてもある程度戦えるようにしたところで、斎藤はその中でも霊基のクラスが高い英霊であったことから、優先的に実践訓練も始まった。
そうして、素材回収のための簡単なレイシフトにやってきた唯斗と斎藤だったが、いつものように、イレギュラーによって通信は途絶し、想定以上の敵生体があちこちに散見されていた。
場所は第六特異点によって派生した中世中東で、からりとした砂漠地帯から小規模な森林が点在するステップ地帯になっていく、現代のベエルシェバ近郊にあたる地域である。
砂漠からは離れており、乾いた土に生えるステップの草原に木々がところどころ生えているような場所だ。
「…マスターちゃん、こういうことよくあるの?」
「珍しくはないな。特に、第五特異点と第六特異点から派生した小特異点は、シバの補足が乱れがちなんだ」
「冷静だねぇ。ま、いいことだけどさ」
「焦っても解決しないからな、気力の無駄だろ。ちょうど開けた場所だから敵影も見つけやすい。空間の修正はしなくてもいいから、まずは霊脈を辿って通信を回復させられそうなポイント探しつつ、予定通り素材の回収が見込める敵生体を倒す」
唯斗は地面に左手を置いて地中の霊脈を辿り、とりあえずは北方に向かうかとあたりをつける。ちょうど、砂漠から離れてエルサレム周辺の比較的肥沃な土地に向かうことになる。
隣に立つ斎藤は周囲を常に警戒してくれている。とりあえず最終再臨まではしてあるが、「一人だけ誠の羽織ってのもね」と言って、新選組としての装いではなく最初のスーツとコート姿で過ごしている。
「通信ができないってことは、こっちの会話も聞こえてないってこと?」
「そうなる。存在証明やバイタルチェックは別系統だからできてると思う。作戦遂行には、そこまで支障ない」
「…、そりゃ作戦上はそうかもだけどさ。マスターちゃんの安全はどうなるわけ?後方支援がザルなの、負け戦の条件よ?」
「別に、俺は自分の防御くらいならなんとかなるし、サーヴァントも単騎でレイシフトするときは必ず高位の英霊に限定してる、合理的な範疇じゃねぇの」
斎藤は「そうじゃない」と言いたげにしつつ、ため息をついて言うのをやめた。
しばらく歩いていると、斎藤がおもむろに立ち止まる。敵影だろう、唯斗もすぐに止まってあたりの気配を探る。
斎藤は唇に人差し指を当ててから、そっと前方を示した。木々の合間をゆらりと浮遊しているのはゲイザーだ。
1匹とはいえアーチャー性質の敵生体だ、相性はよくない。
(どうする?来た道引き返す?)
(や、遠回りになりすぎる。この先に抜けるには、この林を通らないと。索敵範囲が広い敵だ、俺が迷彩術式かけるから、気配消してギリギリまで近づいてから奇襲かけてくれ)
(了解っと)
斎藤はすぐに動き出し、唯斗も迷彩術式をかける。斎藤の姿が見えなくなったが、それだけでなく、その気配すら感じ取れない。アサシンかと思うほどの代物だ。
そして、背後から一気にゲイザーに切りつけたのだろう、ゲイザーは突如として紫色の血液のようなものを噴き出してぐらついた。
ゲイザーはその巨大な瞳をぎらりと光らせ、迷彩術式を解除する。途端に姿を現した斎藤に光線を放ったが、唯斗の結界で防ぎ、その隙に斎藤はゲイザーの瞳へと目にもとまらぬ速さで刀を突き刺した。
そこに、背後から悪寒を感じて、唯斗は咄嗟に振り返って結界を展開した。それが功を奏したのか、背後から接近していたもう一匹のゲイザーによる光線をかろうじて弾く。
しかし、軌道が逸れただけで、唯斗の左肩を掠めた。
肉が焼かれて抉られる鋭い痛みが走り、唯斗は呻きつつ、付近の地中の土砂をまとめてゲイザーの上に転移させた。
「ヴァズィ…!」
それによって一時的にゲイザーは土砂に埋もれる。すぐに出てくるだろうが、その一瞬で十分だ。
「撤退!」
「了解!」
斎藤は瞬時に唯斗のところまでやってくると、唯斗を抱きかかえてその場から跳躍して走り出す。
ゲイザーの移動速度は遅いため、すぐに撒くことはできた。
一方、唯斗は左肩から鼓動に合わせてどくどくと流れ出る血を止血しつつ、治癒術式をかけて回復を開始した。
斎藤は唯斗を姫抱きにして運んでくれていたため、安定して術式を固定できる。誰かほかにもいれば気恥ずかしさがあったが、自分たちだけのためあまり気にしていない。
落ち着ける岩陰に着地した斎藤は、そっと唯斗を下ろす。