後悔先に立たず−6


グランドオーダーも、その後のレムナントオーダーも完了し、これですべてのカルデアの任務は終了したと思っていた。

英霊たちが退去し、査問団の査察を受けているさなか、突如として、再び世界は終わりを迎えた。

辛くも虚数潜航によって難を逃れたカルデアだったが、スタッフの半分を失い、挙句取り戻した人理は地上のテクスチャごと消失。漂白された地表には7つの異聞帯が群雄割拠する事態となったのである。

グランドオーダーももちろん厳しい戦いの連続だったが、異聞帯における戦いは別格だった。なぜならそれは、分岐した剪定事象を淘汰するもの、平たく言えば世界を滅ぼす戦いだったからだ。
汎人類史の存亡をかけたほかの世界との競争は、合計3つの異聞帯、すなわちロシア、北欧、中国に勝利したところで、ようやく、カルデアはノウム・カルデアとして再スタートし、魔術工房島の彷徨海に本拠地を構えるに至った。

そしてようやく、唯斗は本格的な英霊の再召喚を開始した。

キャスターのダ・ヴィンチはカルデアで命を落とし、代わりにライダーのダ・ヴィンチがホームズとともにカルデアの頭脳を担ってくれているが、戦闘時の一時召還はグランドオーダー以上の水準が必要だ。
幸い、前のダ・ヴィンチが残してくれた霊基グラフによって、記憶の連続性を保った状態で再召喚が可能になったため、時間と体力の許す限り、唯斗は再召喚を試みている。

英霊たちの反応は様々で、ランサーやロビンのように軽くいつもの調子で応じてくれた者もいれば、玉藻や清姫のように怒りや悲しみを伝えてくれた者もいた。

オルタはいつも通りの様子だったが、何も言わず唯斗の頭を乱雑に撫でた。
ポルクスは悲しみを、カストロは怒りを示しつつ、ディオスクロイたちは新たな旅路への加護を約束してくれた。

そして、斎藤はというと。


「それで?せっかく元の日常まであと少しってところで、また人理は滅んだわけ?そんでまたマスターちゃんがボロボロになって戦ってんの?」


笑顔でことを確認しているが、その目は笑っていない。姿のない敵に対しての憎悪をはっきりと募らせていた。


「まぁ…こうなったことをいつまでも恨んでられない、とりあえず、この先の戦いに力を貸してほしい。前と違って、世界を滅ぼす戦いだから、もちろん信条的に嫌だったら断ってくれていい」


とりあえず、唯斗は再召喚に際して確認していることを斎藤にも尋ねる。グランドオーダーは世界を救うための戦いだったが、これは汎人類史を救う代わりに異聞帯を滅ぼす戦いになる。
なんであれそんなことに手を貸せない、という英霊がいれば退去に応じるつもりだった。誰もそんなことは言ってこないのだが。

斎藤も、滲ませていた怒りを引っ込めてため息をつくと、唯斗の頭をそっと撫でる。


「言っただろ、俺の剣はあんたに預けた。それは世界のためなんて大層なもんじゃなく…ただ、それにまい進するお前を守るためだ。どんな戦いだろうと変わらんさ。まっ、なんなら、そういう正義のための悪を成すような戦いのほうが一ちゃん向いてるしね」

「…ありがとな、正直、一さんに断られてたらちょっとしんどかった」


オルタやディオスクロイ、斎藤はいろいろと世話をかけた手前、ある程度気兼ねなく頼れる貴重な相手だ。ロビンやランサーもそうだといえばそうだが、1騎でできることの幅という点では、やはり高位の英霊である3騎はとりわけ唯斗にとって重要だった。
これまでの3つの異聞帯で、この3騎がいてくれたらと何度思ったかわからない。


「え〜?断るように見えた?」

「見えないけど、やっぱこう…そこまで信じきるの、まだ難しい」


きっと、斎藤を含めみんな協力してくれるだろうとは思っていた。その優しさをしっかり理解している。
それでも、そこまで全幅の信頼を寄せるのはまだ難しかった。今この状況で裏切られるようなことがあれば、おそらくもう立ち直れない。


「まぁ、こればかりは仕方ないね。いいよいいよ、態度で示していくからさ。ちなみに、僕ってば隊内粛清とか得意なんだけど」

「私刑も私闘も禁止だ」


あっけらかんと天草を暗殺しに行きそうな様子に、飄々とした掴みどころのない性格をしているわりに唯斗のことを大事に思ってくれているのが分かり、信じきることは難しくても、もう少し心を預けてみてもいいかもしれない、とは思えた。



prev next
back
表紙に戻る