後悔先に立たず−10
「…そんな、顔すんなら……裏切ったり、しなきゃ、よかったのに…ばかなやつ…後悔先に立たず、って、知ってるか……?」
「…ええ、俺は愚か者です。愚かにも、自ら裏切っておきながら、罪を償いたいと求めている。あなたがなぜグランドオーダーに命を懸けるのか、第六特異点での記録を見たとき…やはり私は、あなたを守るサーヴァントでいたいと思ってしまった」
「弱ってるとこにつけ込むのやめてくれます?」
すると、唯斗の上体を抱きしめる天草に、斎藤はそう言ってガッと肩を掴んだ。天草はじとりと斎藤を見遣る。
「自分だけに依存させようという魂胆が丸見えですよ」
「もとはといえばお前が余計なことしなきゃ、マスターちゃんだって追い詰められなかったんじゃねぇのかよ」
「それは…」
まだ痛みが引かず呼吸も整わない唯斗の頭上で言い合いを始めた斎藤と天草。
斎藤には、つらさを隠さなくていいと凭れさせてもらった。天草には、一番きつかったグランドオーダー初期からずっと支えてもらってきた。
あの一件以来、天草とは空いてしまった距離を詰めることができずにいたが、必要なものであるはずの注射をためらうくらい、唯斗のことを大切に思っているということが意図せずして明らかになり、唯斗が思っている以上に天草が心を寄せてくれているのだと初めて知った。
それなら唯斗も、もう少し、もう一度、体を預けてみてもいいのかもしれない。
そう思い、唯斗はそっと天草の胸元に凭れかかる。斎藤とまだ言い合っていた天草はぴたりと口を閉じる。
「…マスター?大丈夫ですか?」
「……もうちょい…」
副作用のピークは過ぎた。徐々に痛みや吐き気は引いてきている。体を落ち着かせるために体重を預けると、天草はそっと唯斗の頭を撫でた。その手にすり寄ると、頭上で天草は小さく微笑む。
「もう少しと言わず、ずっとそのままでもいいんですよ」
「結構だ」
「あなたに聞いてませんよ、斎藤殿」
すぐバチバチとする二人に少し呆れていると、今度は別の方向からため息が聞こえてきた。視線を向けると、オルタがのそりとこちらに立ち上がってやってくる。
そして、おもむろに天草から唯斗の体を抱きとった。
「う、わ、オルタ?」
「何するんですか」
むっとした天草だったが、動揺する唯斗をも無視して、オルタは唯斗を横抱きにしたまま移動すると、少し離れた位置に腰を下ろし、あぐらをかいた足の上に唯斗を横向きに抱き込んだ。
左側にオルタの逞しい上体が触れており、さらにマントまで被せられ、唯斗の上半身は太い腕に支えられる。
「くだらねェこと話してないで寝ろ。30分で出るぞ」
どうやら唯斗を休ませるために、喧しい天草たちから距離を取ったらしい。ほどよく重いマントのおかげで、本来人が生きられないほどの寒さを防ごうとする礼装でも防げない肌寒さが和らぐ。痛みがだいぶ引いたこともあって、体勢が落ち着くと急に睡魔がこみ上げてきた。
天草とかつてのような距離感に少し戻れたことも大きい。
唯斗は左側の分厚い胸板に凭れて目を閉じようとして、まずは言っておくことがあったと思い出す。
「…ありがとなオルタ、注射手伝ってくれて。まぁ、機械に油差すような感覚かもしれないけど」
「……お前が、ひでェ怪我負ったり最悪死ぬような状況になったりするよかマシってだけだ。それとも、機械扱いの方が楽だったか?」
「…そういうの向いてない、ってオルタに言われたの、嬉しかったよ」
「……そうかい」
オルタはもう寝ろ、ということなのか、そこで会話を切り上げて唯斗の頭を乱雑に撫でる。雑だが彼らしい優しさに、唯斗は目を閉じて力を抜く。
天草、ディオスクロイ、オルタ、斎藤、それぞれがそれぞれの優しさで唯斗を支えてくれる。苦しい戦いの連続だが、それでも、次の一歩はさほど重くは感じられなかった。