長編番外編−Dodo, l'enfant do
「残滓と余波」
美術館特異点でのサンソンとの一コマ
美術館特異点での調査が順調に進んでいる夜、ボイジャーの経歴詐称や唯斗が独自に美術館側との企画という体裁で進めている話について、すべて嘘であってもちゃんとした書類にするべく、唯斗は宿泊しているコンドミニアムのリビングで書類を整理していた。
作成そのものはカルデアでやってくれているため、使う機会などを現地で吟味して事前に整理しているのだ。
立香とボイジャーには先に休んでもらっており、荊軻はいつも通りキッチンで飲酒し、カウンター席で天草もそれに付き合っている。
「マスター、ココアを用意しました」
「お、ありがと」
そこに、サンソンが湯気を立てるマグカップを持ってくる。ソファーで隣に腰を下ろしたサンソンは、テーブルを見て進捗がもう終わるところだと理解した。
「そろそろ休んでください、という小言は不発に終わりそうですね」
「クリティカル食らった小言が多すぎるんだよ」
「おや」
「なんでもない」
唯斗は左隣に座るサンソンに余計なことを言って怒られる前にと、ココアを口に含む。いつも通り、サンソンらしい丁寧なつくりだ。
飲んだときの食感、甘さ、温度、すべてが唯斗を考えて作られている。
「あーうま」
「それはよかった」
ふ、と小さく微笑む気配を感じつつ、唯斗はすべての書類をまとめあげてファイルに収納し、ほかのものは封筒にしまう。ラベルを貼れば作業完了だ。このココアも、作業に集中していたところを睡眠に誘導するためのものだろう。
それにしても、と現代的なコンドミニアムを見上げて、隣のサンソンに視線を移し、唯斗は感慨深くなる。
「どうかしましたか?」
「いや、なんかさ。サンソンとこういうところにいると、本当になんか、現代フランスで知り合った人と旅行でもしてるみてぇだなって。ギルガメッシュとかアーサーとかじゃそうはいかない。サンソンだから、現代の感覚になる」
近代の英霊であるため、こうしているとまるでサンソンが現代フランス人のように思えてくる。実際には、サーヴァント契約がなければ会話も成り立たないほど時代のずれがある。
サンソンはそれを聞いて薄く笑う。
「あなたとの旅行なら、きっとすべてが輝いて見えますね」
「うわ、フランス人みたいな口説き方してる」
「フランス人ですから」
そんなしょうもないやり取りにくすくすと笑いながら、唯斗はそっと、左側に体を傾けた。体重を預けてみると、サンソンは特に気にした様子もなく、唯斗の肩を抱いて引き寄せる。
開いたコートの合間から、白いシャツ越しにサンソンの胸元に顔を埋めるようにして抱き着くと、サンソンは小さく笑った。
しかし何を言うでもなく、後頭部を撫でられる。清潔な匂いと温もりを感じていると、あっという間に睡魔が首をもたげてくる。
安心できる相手とならすぐに眠りにつくことができる唯斗だが、サンソンは恐らく、ずっと前からそういう存在だった。それに気づく機会は、ノウム・カルデアで不寝番が始まってからになったが。
「おやすみ、唯斗」
そう優しい声音で言ってくれることが改めて嬉しく感じられ、唯斗は睡魔に身を任せながら、もう少し深く抱き着いた。