brise de printemps−5
唯斗の契約サーヴァントはシャルルだけだが、藤丸は魔術師ではないこともあって、戦略の多様化を図るべく多くのサーヴァントの召喚を行っている。
それによって、第二特異点探索を控えたころには、カルデアの食堂は賑わうようになっていた。食料リソースも小特異点から回収できるようになったことと、腕の立つ厨房の英霊たち、ブーディカやエミヤなどのおかげである。
こうして人間スタッフ以外にも英霊たちも食事をするようになったカルデアの食堂は、徐々に唯斗にとって居心地の悪い場所となっている。
もともと唯斗は誰とも関わらずに生きてきたし、周りもそれを良しとしてきた。唯斗を監視していた魔術師たちとはコミュニケーションを取ることなどありえなかったし、学校に通っていた間も友人などいなかった。
カルデアに来てからも、他のマスター候補たちは唯斗の事情を知っているため近寄らず、唯斗の方から話しかけることもなかった。
そして爆発事故によって一気にカルデアの人口が減ると、唯斗はがらんとした食堂で一人で食事をとっていた。藤丸とマシュは、当初唯斗とも一緒に食事をしようと声をかけてくれていたものの、唯斗は食事の時間を一人で過ごしたいと伝え、藤丸たちも食い下がることはしなかった。
そうした細やかな気遣いは藤丸の良いところだと思う。
しかし今、食堂は多くの英霊で賑わい、静けさはなくなっている。さすがに座る場所がなくなるようなことはないものの、数席以内に他の英霊や人間がいるだけで、唯斗としてはパーソナルスペースを侵害されている気分になる。
さらに、陽気な英霊は唯斗に話しかけてくる始末だ。唯斗の性質は知られているため、知っていてあえて話しかけてくるということである。主に、ランサーやキャスター、マリーなどが該当する。
あの場にいるだけで気疲れして食欲も失せてしまうが、かといっていちいち食事を自室に持っていくのも面倒だ。唯斗は食べる量が減っていることを自覚しつつ、今日も仕方なく食堂での昼食を取ることにした。
カウンターでトレーを受け取り、なるべく人が少ない壁際の方に座る。今日はサンドウィッチプレートだ。それだけかとエミヤには渋い顔をされたものの、いよいよまずい、という事態になるまでは静観してくれるだろう。
今日はほとんど人がいないテーブルがあったため、唯斗はこれ幸いとそこに座る。さすがにわざわざ、ここまで人避けしている唯斗のところにやってくる英霊もいないだろう。
「あ、マスター!」
「…マジか」
直後、食堂に入るなりでかい声に喜色を滲ませて駆け寄ってきたシャルルに、見通しが甘かったとため息をつきたくなった。
食堂で鉢合わせるのは初めてだ。
「一人?俺も一緒していいかい?」
そう聞きながら向かいの席に座ろうとしている。ここで断るのはあまりに態度が悪すぎるだろう。一応、契約しているサーヴァントである以上、関係は良好に保つ方が合理的だ。
ただ、毎度来られるのも困る。
「…いいけど、今日だけな」
「あー…やっぱ一人が良かったか?」
シャルルは困ったように笑った。そういう顔をさせたいわけではなかったが、話しかけてきたのは向こうなのだから仕方のないことだ。
「まぁな。けど、これから特異点に同行してもらうわけだし、ある程度は許容できる。とはいえ、嫌でもレイシフト中は顔を合わせるんだし、一緒に飯食うのは今日だけ。俺は基本、一人でいたいんだ」
「…ま、確かに特異点では一緒だしな。じゃあカルデアでは今日だけってことで。いや本当は、みんなで食べたかったけどさ。マスターが一人でいたいっていうんなら、無理は言わないよ」
その「みんな」とは、藤丸たちだけでなく、仲良くなった英霊たちも含まれていくのだろう。この男のことだ、周りに常に人が集まるに違いない。危ないところだった。
「それで?なんか用か?」
「?いや、ただマスターと一緒に昼飯食いてーなーって思ってただけだ。藤丸たちと一緒に食ってんなら邪魔しちゃまずいかなって思ってたんだけど、そろそろ俺も加わってもいいかなって様子見て顔出してたんだよ。でも、マスター全然食堂にいねーから」
「あぁ、藤丸たちとは時間ずらしてるからな。あいつらが飯食う時間、一番食堂混んでるから」
「そういうことかぁ。道理で探しても見つからなかったわけだ」
「…、そんな俺のこと探してたのか、毎度」
どうやらシャルルはこの機会を狙って、食事時に毎度顔を出してくれていたらしい。昼はともかく、朝と夜はタイミングがバラつきやすいため、昼だけ探していたのかもしれないが、それでも結構な期間、すれ違っていたようだ。