brise de printemps−6
「おー。もっとマスターのこと知りたくてさ。藤丸とマシュにもその話したら、二人も知りたがってたぞ。ちょっとは話聞けるかと思ったのに、二人もマスターのこと全然知らないみたいでさ」
「必要最低限の会話しかしねぇしな。俺のことなんて知ったところで、時間の無駄だろ」
「そんなことねーって。それに、藤丸にとっては唯一のマスター仲間、俺にとっても唯一のマスターだ。必要かどうか以前に、知りたいって思うのが普通だろ?」
「普通、な。まぁ藤丸みたいなやつからすれば、俺は普通じゃないし、魔術師の世界でも普通じゃねぇだろうな。だから理解できない」
自分のことすらどうでもいいのだ、ましてや他人のことなど一切興味も関心もない。好きにしていればいいが、自分には関わらないで欲しい。
唯斗の言葉に、またもシャルルは困ったようにした。
「…、マスターはさ、俺のこと、あんま好きじゃなかったり…?」
「は?なんで?」
「いやぁ…自分で言うのもなんだけど、俺って一応、ヨーロッパの父とか言われるような英霊のいち側面なわけじゃん?それでも関心もってくれねーんなら、そもそも好きじゃないのかな、とか、思うわけさ」
快活な少年然りとしたシャルルだが、気まずそうに頬をかいている。唯斗があまりに無関心な態度であるため、嫌われているのかと不安になっているようだ。
内心、ちょっと面倒くさいなと思ってしまう。だから近づかれるのは嫌なのだ。
「…シャルルがどうこう、とかじゃなくて、俺は誰に対してもこうだよ。自分のことだってどうでもいいんだから、他人のことはもっとどうでもいい。もちろん、歴史的な観点から英霊には興味も関心はあるし、それはシャルルもそうだけど、わざわざ俺から話しかけて生前のこと聞いてみるような真似するほど、俺はアクティブじゃない」
「じゃあなんで、グランドオーダーなんてやってるんだ?自分も周りもどうでもいいなら、世界だってどうでもいいってなりそうなもんだが」
少しシャルルは真剣な目で聞いてきた。恐らく、この戦いに対しても無気力ではないか、と確認してくれているのだろう。それくらい、シャルルも人理修復に本気で応じてくれているということだ。それ自体はとても有り難い。
「モチベーションなんてない。シャルルの言う通り、世界や人理がどうなろうとどうでもいい。でも俺はカルデアで生きていて、ここで生きるからには何かしないといけない。それに…」
「…それに?」
シャルルが言う通り、唯斗は本来、グランドオーダーなどという大層なことをやるような人間ではない。それでもこうしているのは、ただそれがやるべきことである、というだけだったが、今はまた少し違うものがあるかもしれない。そう、思い始めていた。
少し周りを見て、周囲の注目がこちらにないことを確認してから、声のトーンを落として言葉を続ける。
「…第一特異点で、ジャンヌやマリー、ジークフリートたちの戦いを見て…彼らが守りたかったもの、大切だと語るものが、なんだかとても綺麗に見えた。俺は、フランスなんて大嫌いだし、世界のこともどうでもいい。でも…思ったより、悪いもんじゃないかもなって、そう思ったんだ」
「マスター…」
「それに、目ぇ離すと一般人マスターが平気でサーヴァントの前に突っ込むからな。魔術師でもないような程度の俺だけど、それでも同行しないと何しでかすか分からないだろ、あいつ」
シャルルは唯斗の返答を聞いて、満足そうに微笑んだ。いったい何かと思っていると、察したのか聞く前にシャルルが自分から口を開く。
「マスターはいいヤツだな。そんな自分を卑下する必要ねーと思う」
「…、まぁ、その評価を維持してもらえたらいいなってことにしとく」
「素直に受け取れよ〜」
おかしそうに笑ったシャルルに、ついこちらも毒気を抜かれるような気がした。変に頑なになるより、こちらも身構えずに応対した方が案外楽かもしれない。
なんだかんだ会話が続いた昼食の時間も終わりが近づく。
数日後には、第二特異点へのレイシフトが控えていた。