brise de printemps−7


第二特異点は、早々に現地の皇帝ネロと合流し、首都ローマに到達することこそできたものの、連戦に次ぐ連戦となっている。
ひっきりなしにやってくる「皇帝連合」とやらの敵軍に応戦しているのだが、藤丸の意向によって、極力殺さない、という方針で戦っている。それが全体の疲弊を招いており、さすがのシャルルも息を切らしている。

本人からの自己申告通り、シャルルは英霊としてかなりコストのかかるサーヴァントであり、カルデアを経由して因果線を繋ぎなおした今ですら、かなりの魔力を唯斗から持っていっている。常に全力を出そうものなら、カルデアの施設の3分の1を閉鎖して電力供給を集中させる必要が出てくるだろう。

当然、そのシャルルが呼吸を乱しているのだから、唯斗もかなり疲弊していた。特に、藤丸がしょっちゅうマシュやマリーなどを庇おうとするため、唯斗がそのフォローに追われているということもある。


「マシュ!そっちからも敵来てる!」

「先輩っ!」


マシュが別の兵士に気を取られている隙に迫っていた兵士を、藤丸がなんとかしようと駆け出し、唯斗は咄嗟に結界を展開する。


「あんのバカ…っ、天よ、地よ、真実を見よ(ドゥアル エブル グウェレット グウィル)!」


マシュの反応は間に合わず、唯斗の結界がなければ藤丸は切りつけられていただろう。結界の直後、唯斗がその兵士を強めのガンドで吹き飛ばしてから、魔力のメンヒル、ケルト文明の巨石を出現させて爆発、敵を牽制する。

そして、唯斗はついに藤丸に怒鳴りつけた。


「前に出すぎだって何度言えば分かるんだお前!!」

「だ、だって…」

「庇う前に指示を出せ!できないなら負傷後のプロセスに移行しろ!何度も言ってるだろ!!」

「っ、」


藤丸は、敵を殺さない戦い方で疲労を強いている自覚があるため、唯斗の言葉に反論しない。いつもはある程度反駁があるものの、今回は唇を噛み締めるだけだ。


『唯斗君、今はそれくらいに…』

「ロマニ!お前がもっとしっかり教育しねぇからだろうが!あ、シャルル!縦方向じゃなく水平方向の斬撃で距離作れ!」


ロマニへの小言もそこそこに、唯斗は相次いでシャルルにも指示を出す。ロマニは通信で『僕にまで矛先が…』としょぼくれていた。
シャルルはジュワユーズによる元素系の魔術効果で敵をなぎ倒していくが、今回は水がメインになっているようで、敵は死には至っていない。
ジュワユーズは各元素の魔術的効果を纏うことができるようで、水や炎、風などその斬撃は様々な効果を付随させる。

しばらくすると敵軍は撤退し、夕日の沈むローマ郊外にはだんだんと静けさが戻ってきた。ネロの案内で市内の宮殿で宿泊できることになっているが、歩きながらすぐ、藤丸がぽつりと唯斗に声をかけた。



「…唯斗、」

「なんだ?」

「…ごめん、迷惑ばっかかけて」


藤丸にしては沈んだ声だ。通信越しにロマニも心配そうな声を出したし、マシュも気遣っている。シャルルは何も言わずにこちらを窺っていた。

当初会ったときよりも枝毛が増えたオレンジの髪、小特異点で負った小さな傷の跡が残って荒れている肌、土で汚れた爪。
別に女子だから特別守るべき相手などとは欠片も思っていないが、ただの一般人なのに、なぜここまで頑張れるのだろうとは不思議だった。

だが、そんなただの一般人だからこそ、そして藤丸が生来持つ明るさやまっすぐさ、誠実さがあるからこそ、このグランドオーダーが成立しているのだと、第一特異点で唯斗は理解している。彼女だから、英霊たちも手を貸すのだ。
人間もどきの無気力な唯斗では到底できないことであり、魔術師でもできない者が大半だろう。


「…別に、お前がいなきゃグランドオーダーは成り立たないんだから、迷惑かけるくらいどうってことないだろ」

「え…」

「魔術が使えるかどうかじゃなく、周りを巻き込んで前に進んでいく、そういう人間的な…人格の力の方が重要で、それは俺にはないからな。藤丸だから、カルデアは世界を救う旅ができるんだ」


確かに藤丸の考えや価値観は唯斗には理解できないが、そういう側面がこの旅を可能にしている。だから、藤丸の言う迷惑も、必要なことなのだ。


「迷惑じゃない、とは言わない。でも、必要なことで、大事なことだと思ってる。だからまぁ、守るくらいならしてやる」

「それは…私が女だから?」

「性別はどうでもいい。お前の生来の性質が重要なのであって、それは性別に依存しない。お前が男だろうと女だろうと、お前がお前である以上、俺は藤丸にかけられた迷惑に文句を言いつつ怒鳴りつけつつ守るだろうな」


もっと言えば、藤丸だけ生きていればいいのであって、唯斗が死んでもグランドオーダーに問題はない。もしどちらかが命の危機に瀕することになるのなら、唯斗がその役を負うべきだ。
ただ、そこまでは口にしなくていいだろう。


「あぁ、でも守りはするけど、サーヴァントを庇うのはやめろ」

「えー、そう言われても体が勝手に動いちゃうっていうか…」

「はっ倒すぞマジで」


藤丸もいつもの調子に戻り、空気が弛緩する。やはり、藤丸の表情一つで場の空気が変わるような気がする。

すると突然、シャルルが唯斗の肩を組んできた。


「かぁっこいいなぁマスター!」

「うわ、」


肩を組んで、というより肩を抱いてきたシャルル。ほぼゼロ距離はさすがに初めてだ。こうした接触はほぼ経験がないため、唯斗は困惑する。


「なんだよ」

「マスターはカッコいいなぁって」

「あ、分かるよシャルル。私もうっかりトキメキそうになったもん、唯斗って顔がめちゃくちゃ良いから。でも私にはマシュという世界一可愛い後輩がいるからね…」

「せ、先輩…!」


先ほど謝ってきたときのしおらしさはどこへやら、藤丸はすっかりしたたかな様子を見せている。マシュを歩きながら抱きしめており、マシュは顔を赤くしていた。
ネロも「仲良きことは美しきなり、だな!」と頷いている。

シャルルはそんなネロに「相変わらずだなー」なんて言っているが、過去に英霊の方と会ったことがあるのかもしれない。玉藻にもそんなことを言っていた。


「…そろそろ戻るぞ、明日もあるんだから」


いろいろ言いたいことはないでもなかったが、唯斗はそれをすべて押し込む。面倒さが勝り、シャルルの腕もどかした。
そもそも同年代とここまで会話したこと自体、グランドオーダーが初めてなのだ。唯斗にはまだ、そうしたことは億劫だった。



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