brise de printemps−11
第四特異点の修復を終えて帰還した唯斗は、すぐに医務室のベッドで入院のような扱いを受けることになった。
最後、ニコラ・テスラとの戦闘で大きな外傷を負い、そのまま帰還したため、ロマニにベッドへと押し込まれたのだ。その戦闘でマスクを破壊され、霧をそれなりに吸い込んでしまったこともある。
なぜそんな負傷をしたのかと言えば、ニコラ・テスラが召喚された衝撃で藤丸とマシュ、モードレッド、そしてシャルルも気を失い、一時的に戦闘できない状況となったため、唯斗が単独で追跡したのだ。
戦うつもりはなかった唯斗だったが、ニコラ・テスラは霧によって唯斗を知覚し発見されてしまい、なし崩し的に戦闘となってしまった。
もちろん、サーヴァント相手に何とかなるとは思っていなかったため、唯斗は隙を見て脱出するつもりだった。
その隙を作るまでのわずかな戦闘で大きな怪我を負うも、なんとか左手の魔術刻印を駆使して地下通路に穴を開け、ニコラ・テスラのいる場所から離脱。彼もそれ以上深追いすることはなかった。
そして現在、ベッドで上半身を包帯で覆われて仰向けになる唯斗を見下ろす形で、ベッド脇にシャルルが立っていた。
「マスター…俺が言いたいこと、分かるか」
低い声で問われ、この男がわりと怒っているのだと理解する。唯斗はつい視線を逸らし、とりあえず推測で答える。
「…サーヴァントなしで深追いするな、とか?」
「まぁ概ねそういうことだが…総じて、危ないことするな、ってことだ」
「…ニコラ・テスラに勘付かれるのは想定外だった。近代の人間で魔術師でもなかったんだし、俺の迷彩魔術を破られるとは思わなかった。実際、魔術が破られたんじゃなく、霧の流れで物理的に察知されたわけで」
ロマニもそこまで怒っていなかったのは、唯斗と同様、ニコラ・テスラを追いかける判断が合理的な範囲にあると考えたからだ。それくらい、唯斗の迷彩魔術は高度なものであり、魔術師でもなければ神霊でもないニコラ・テスラに気づかれる可能性はない。
魔霧という特殊な性質の霧が辺りを包んでいたからこそ、気づかれてしまったのだ。
「令呪で俺を呼んでくれれば良かっただろ。そうすりゃ、呼ばれた衝撃で目覚めたかもしれねーし」
「令呪を使う隙がなかった。それくらい、あいつは英霊でありながら俺を警戒していた。そういう性質のやつなんだろ、そうは見えなかったとはいえ」
一言で言えば想定外だった、に尽きる。
しかしシャルルは納得していない。いや、頭では理解しているのだろうが、釈然としていない様子だった。
「…藤丸よりマスターの方が怪我していい、なんてのは、受け入れがたいけど、あんたたち二人ともが怪我しないよう俺らが気を付けりゃあいいだけだ。でも、マスターが自発的に危険なことされたら、守り切れなくなるだろ」
声に覇気がなく、またもシャルルの表情は暗くなっている。最近、こういう顔ばかりさせている気がした。
「…、シャルル」
「…うん?」
「俺がマスターでごめんな。藤丸の方が、性格的にも相性いいだろうし、何より不快な思いさせずに済んだ。俺、人として欠けてることばかりでさ」
ついそう謝ると、シャルルは一瞬、泣きそうな顔をした。ぐっと堪えてからその場に膝をつき、ベッドに投げ出された唯斗の右手を両手で包みながら持ち上げる。
令呪の浮かぶ手を握るシャルルは、そこに額を寄せて祈るような姿勢になっていた。
「頼むよマスター…あんたのこと、大切にさせてくれ……」
「…、悪い…大切にされたこと、ないから、どうすりゃいいのか分からない」
「っ、」
さらに手を握る力が強くなる。息を飲んだシャルルはそれ以上何も言わなかった。
唯斗とシャルルは、どこまでも噛み合わない。