brise de printemps−12
第四特異点後の一件以来、さらに唯斗とシャルルの間の距離が開いた。
あからさまにギクシャクとするようになったというか、シャルルの方が、唯斗とどう接すればいいのか分からないようだった。
唯斗の方は何も変わっていないため、シャルルと会話になった際にはいつも通り接しているが、シャルルの方がぎこちないことで、ほとんど会話が続かなくなっている。
そんな状態ではあったが、なんとか第五特異点の修復も終え、残る特異点は2つとなった。
第六特異点の座標特定までの間、一日も会話しない日が出てきて、やがて数日顔も見ない期間も出てきている。人と人とが離れるのはあっけないものだな、と唯斗は他人事のように思っていた。
一方で、唯斗は他の英霊と、少しずつ話すことができるようになりつつある。
4つの特異点をこれまで修復し、様々なサーヴァントと話す機会があったため、次第にハードルが下がってきているのだ。
さすがに一緒に食事をとるようなことこそないものの、訓練でもレイシフトでも、むしろシャルルより藤丸のサーヴァントたちとの方が会話があるほどだ。
端から見ていてもそれは分かったのだろう、ある日、ダ・ヴィンチ工房で第六特異点に向けて礼装の調整をしている際、ロマニとダ・ヴィンチから指摘されてしまった。
「そういえば唯斗君、シャルルとは冷え込んだままかい?」
「レオナルド、君ね…でも唯斗君、彼とギクシャクしたままなのは好ましくないよ」
計測のために外していた礼装のベルトを締めつつ、唯斗はなんと答えようか迷う。
「あー…まぁ、分かってはいる」
「それはマスターとサーヴァントとして、ということだろう?」
しかし、ロマニは単なる小言のつもりで言ったわけではないようで、思っていたのと違う返答をしてきた。
唯斗はつい、ロマニを見上げてぽかんとしてしまう。
「…、それどういう…」
「マスターとして、サーヴァントとの関係が良好ではないのは良くない、そういう意味で捉えているだろう」
「ほかに何が…?」
「君個人のことさ。僕は、君にとってシャルルがとても重要な存在になるんじゃないかと思っている」
ロマニの言うことは雑駁としているが、それはあえてだろう。オブラートに包むときはもっと迂遠な言い方をする。
困惑している唯斗を察したのか、ダ・ヴィンチの方が補足した。
「彼は君を救うために召喚された、と言っていただろう?そして君は、それが無理だと。でも本当にそうかな?」
「あんたらは、シャルルがグランドオーダー後の俺に何かできる、と考えてるってことか」
二人とも、唯斗が魔術協会によってブラックリスト入りすることを理解している。そのうえでこう述べているのであれば、二人はシャルルが唯斗を救えると思っているのだろうか。
「無理だろそんなん。グランドオーダーが終われば英霊は全員退去する。俺はロンドンに呼び出されカルデアから出て行く。シャルルだけ現界を維持して、挙句にカルデアを出てロンドンまで向かわせるのか?どこにそんなエネルギーがあるんだ」
カルデア式の英霊契約は、通常の聖杯戦争と違い、サーヴァントに単独行動の幅を持たせている。魔力供給源が電力によって均一に保たれているため、アーチャーやアサシンなどでなくても、サーヴァントはカルデアから離れることが容易だ。
それでもさすがに南極から英国は距離がありすぎる。現界しながらそこまで移動するとなると、相当なエネルギーが必要になる。
「そもそも、カルデアの炉心を停止させられるだろ。その後、国連の指示で監査が入るはずだ。そうなれば現界すらできなくなる」
現状、グランドオーダー後のカルデアでは、事態の調査のため、そのエネルギー自体が停止させられる可能性が高い。遠出どころかカルデア内で現界することそのものができなくなるだろう。
しかしダ・ヴィンチはそれを否定せず、一方でニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「どうかな?もしかしたら、どうとでもなるかもしれない。君たちの意思次第でね」
「精神論か?」
ダ・ヴィンチの意図が分からない。もちろん、この万能の天才がそんなことを言うはずがないため、唯斗はどういうことかとロマニに視線を向けた。
ロマニは肩を竦める。
「まぁ、精神論というか…覚悟の問題だ。君たちの覚悟によっては、僕たちも応じることもあるだろう。そのときは全力でバックアップするとも。だからまずは、シャルルに対して、そして自分自身に対して、もう少し正直になってみてもいいんじゃないかい?」
「はぁ…?」
結局、なんら具体的な話になっていない。しかし、ただの精神論や楽観論を語る二人でもない。
いったい何を言いたいのか分からず、唯斗は眉を寄せてしまう。正直になる、というのがどういうことかまったく理解できなかった。