brise de printemps−13
ついに始まった第六特異点の探索。
シャルルの代わりにダ・ヴィンチが同行することになったのは、特異点の性質上仕方ないことだったが、少しほっとしている自分もいた。いよいよ、シャルルとどう接すればいいのか唯斗も分からなくなっていたからだ。
ほとんど会話も接点もないまま、訓練でのみ顔を合わせていたような形だ。
しかし、あまりに過酷な旅路に、ついシャルルがいれば、と思ってしまう場面もあった。
ただ隣にいてくれるだけで、随分と唯斗は、シャルルの存在に安心を得ていたらしい。自分では分からないものだ。
そして、そんなことを自覚するには、あまりに遅すぎたのだろう。
「よくぞここまで戦いました、マスター雨宮。しかしこれまでです」
キャメロットの王城、その回廊でガウェインは炎を纏う聖剣ガラティーンを振り上げる。
藤丸とマシュ、ベディヴィエールを先に獅子王のもとに向かわせ、唯斗はダ・ヴィンチとともにガウェインの足止めを図っていたが、獅子王のギフトを得ているガウェインはあまりに強く、もはやダ・ヴィンチも動けずに膝をつくばかりだ。
「唯斗君、逃げるんだ、今すぐ」
ダ・ヴィンチはボロボロになりながらもかろうじて杖に体重を任せて膝立ちになっているが、もう攻撃はおろか防御も難しい。なんとか魔術によって結界を展開できても、防げるのは一発分くらいだろう。
唯斗も魔力の消耗が激しく、ダ・ヴィンチとともに魔術でガウェインと戦闘を続けたこともあり、これ以上の戦闘は難しい。
「…そう、だな」
唯斗はそう返しはしたが、きっと、唯斗が逃げるよりダ・ヴィンチが逃げる方が良いだろう。
この先必要なのは唯斗ではなく、この天才だ。ダ・ヴィンチなしで、第七特異点、そして魔術王ソロモンとの戦闘は難しい。現在のカルデアの人的資源ではダ・ヴィンチの穴は決して埋められない。
この大理石の床に穴をあけてダ・ヴィンチを逃がし、唯斗が最後の力で一撃を防ぐ。その間に、ダ・ヴィンチには階下から獅子王のもとへ先回りしてもらうのだ。
ガウェインがガラティーンを振り上げる。莫大な魔力が放出されようとしているのを見て、唯斗は左手の刻印から魔術を起動した。
「ヴァズィ」
「なッ…!」
直後、ダ・ヴィンチの足元の床が消失し、その大理石がガウェインの頭上に転移する。同時にダ・ヴィンチは階下に落下した。
ガウェインは造作なく瓦礫を跳ねのけたが、ダ・ヴィンチを階下に逃がした唯斗を見て片眉を上げる。
「サーヴァントを逃がしますか」
『何をしているんだ唯斗君!!』
これまで聞いたことないようなロマニの怒声が聞こえてくる。ダ・ヴィンチも、落下しながら唯斗の名前を叫んでいた。あの負傷と疲弊だ、いくらサーヴァントでも、キャスターのダ・ヴィンチでは階下に落ちたら容易にここまで戻ることはできない。この回廊はそれほど天井が高かった。
「この先のカルデアに必要なのは、俺じゃなくてダ・ヴィンチだ。一番いてもいなくてもいい存在なのは、俺なんだから」
『君は…ッ!!』
『唯斗!!駄目だよ逃げて!!!』
通信から、ただならぬロマニの様子に察した藤丸も叫ぶ。ガウェインは当然、その唯斗の心意気を買って、攻撃を続ける。
「なら、ここでお別れです。
転輪する勝利の剣!!」
「
我らを試みにあわせず、悪より救いだし給え」
その宝具と同時に、唯斗は最も強固な結界を展開した。ブルターニュの伝統文様が浮かぶ高度な結果が唯斗の周囲をドーム状に囲い、その周りを焼き尽くす聖なる炎から唯斗を守る。
だがすぐに、結界には亀裂が生じた。当然だ、あのガウェインの宝具をまともに防ぐなど難しい。この一撃を、凌げるかどうかといったところか。連続使用はもちろん不可能である。
もしここで唯斗も階下に逃げようものなら、再びガウェインはダ・ヴィンチと唯斗を一網打尽にする。だから唯斗はここで死ぬまでガウェインに向き合い続け、なるべく足止めしなければならない。