brise de printemps−15


突然、結界の内側に眩い光とともに魔力の霧が吹き出し、さらにその衝撃波が結界ごとガラティーンの炎を吹き飛ばす。回廊の壁と天井が崩落し、柱が倒れ、陽光が焼けただれた床を粉塵越しに照らす。


「っ!何者です」


ガウェインは警戒して剣を構える。煙がだんだんと晴れる中、霧も風に流されていく。
そこから現れた姿は、乾燥した砂漠の風ではなく、暖かな春の風を纏っていた。


「救いに来たぜ、唯斗。よく頑張ったな」


いつもの快活な笑みでそう言うと、シャルルはジュワユーズを構えながら唯斗を庇うように前に立つ。
その背中を見ただけで、唯斗は気が抜けて床にへたり込んでしまった。同時に、本当に来てくれた、と、目からまた水滴が零れ落ちる。


『そんな、本当にレイシフトが成功した…そうか、因果線をカルデア経由に繋ぎなおしているとはいえ、本来シャルルマーニュは唯斗君が独自にフランスで契約したサーヴァント…その令呪の力と、レイシフトのバックアップで、本当に特異点へのパスをこじ開けたのか…』


愕然とするロマニの言う通り、これはとんでもない荒業だ。というか、こんなことして霊基が無事で済むはずがない。
唯斗は慌ててシャルルの体を魔力を籠めた目で確かめる。致命的な傷ではないが、やはり霊基がボロボロになっている。相当に苦しかったはずだし、今も激痛が走っているはずだ。
それでもシャルルは笑顔で立っていた。


「なんで、そこまで…」

「何度も言ってるだろ?俺はあんたを救うためにここにいるんだ。世界から弾かれて、それでも、と奮い立って俺たちがバトンパスしてきた歴史を繋ごうと足掻いてくれた。そんな唯斗を、俺は最高にカッコ良いと思うし、守りたいと思うんだ」


誰も唯斗を受け入れず、存在を認めず、生きているか死んでいるか分からないような生活を続けてきた。きっと心のどこかでは、家族団欒を楽しむグロスヴァレの家の人たちや、街を行き交う人々のようになりたいと、そう思っていたのかもしれない。
そんなことを願っても意味がないから、そんな願望はそもそも自分にはない、自分は人間もどきの存在だと言い聞かせてきた。

今初めて、助けを願い、そしてシャルルが助けに来てくれたのだ。

ここまで示されてしまったら、もう、信じるしかないだろう。


「フランク王国の王にして欧州の父、シャルルマーニュですか。新手であろうと切り伏せるのみ」

「相変わらずクールだなぁガウェイン卿は!うん、やっぱ円卓はカッコ良い!だからこそ、こんな特異点、残すわけにはいかねーんだ」


シャルルはガウェインのことも知っているらしい。当然向こうは知らないが、成り立ちが特殊なシャルルは以前の現界の記憶を完全に有している。


「マスター、宝具を解放したい」

「いいけど、俺もお前も魔力ギリギリ…っていうか、シャルルの霊基が保たないだろ」

「うわ、マジだ」


どうやらシャルルは自覚がなかったようだ。危ないところだった。この状態で宝具を打てば消失は免れなかっただろう。
隙を作り、その一瞬で、済ませるしかない。

唯斗は一度呼吸をしてから、魔術を相次いで展開した。


風よ、剣のごとき突風たれ(アヴェル、ベザー フウェアデン クレーゼ)!」


詠唱とともに、風が鋭利な刃物のようになって何層にも重なりガウェインに向かう。周囲の瓦礫を粉砕して、その粉塵が立ち上がる。いわゆる鎌鼬であり、ガウェインが跳躍して避けたところで重ねて詠唱する。


天よ、地よ、真実を見よ(ドゥアル エブル グウェレット グウィル)転移(ドント)強化(クレヴァート)指向(ポエント)射撃(タン)!」



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