brise de printemps−21
シャルルは立ち上がったばかりの唯斗の肩をそっと押す。優しいその力に流されるがまま再びベッドに腰を下ろして上体を倒すと、シャルルは唯斗の上に覆い被さるようにベッドに乗り上げてきた。
「シャルル…?」
「俺たち、これで恋人だろ?唯斗は俺のだし、俺は唯斗のだ。恋人がベッドでやることは、一つだろ?」
「え、もう…?」
さすがにそこまで言われて分からないほど純朴ではない唯斗だが、シャルルがこうしてすぐに体を重ねようとすることは意外な気もした。もっとゆっくり進めるかと思っていたのだ。
「当世では愛情を確かめる手段だと聞いた。だから、俺も唯斗としたい。それに、残すところ第七特異点と魔術王との戦いだけとなった今、もしも唯斗が元の暮らしに戻れるなら、時間はあまりないじゃん?」
「あ…そっか」
まだ唯斗の処遇は固まっていない。そもそも、ソロモンに勝たなければ世界そのものが戻ってこない。
そのため、まだシャルルとグランドオーダーの終わりとともに永遠の別れとなる可能性も十分にあった。
「もちろん、嫌だったら拒否していいし、俺がそれで気を悪くすることもねぇ。怖がることも、痛いこともしないと約束する」
「シャルルは…その、俺相手に、そういう気分になんの?やっぱ男だから、とか途中でなったりしないか?」
「するわけねーだろ!帰還してから唯斗が可愛すぎて、もう結構やばいもん。ダ・ヴィンチちゃんが察してグッズくれるくらいだしな」
「グッズ?」
シャルルは、先ほど一度自分の部屋に戻った際に持ってきたらしい小袋を取り出した。帰還したときにダ・ヴィンチから投げ渡されていたものだ。
「男同士はいろいろ大変らしいからさ。ほら」
そう言ってシャルルが袋から取り出したのは、ローションやスキンなどの生理用品だった。どういう気遣いだと頭が痛くなるようだ。というか、二人のことがそこまでバレているということか。唯斗だって、シャルルを受け入れたのはたった今だというのに。
「安心してくれ、男を抱くのは初めてだけど、ちゃんと勉強しておいた」
「何勉強してんだよ」
「実際には魔力供給のときを一番想定してたんだけどな。なんかこう、唯斗と一緒にカルデアを出て旅することになったら、そういう機会…魔力供給とかじゃない意味でのモンがあるかな、とか思ったりしてな」
「…シャルルって、結構俺のこと好きなんだな」
「愛してますけど!?」
心外だとばかりに声を荒げて見せたシャルルに、唯斗は小さく吹き出す。勢いの良さに思わず笑ってしまった形だ。
「ふっ、そっか。俺も好きだよ」
「う…かわいい……」
なんであれ、シャルルは本気で唯斗を抱こうとしているのだと分かり、少し安心する。もしも義務のようなものだったらと僅かに危惧したが、杞憂もいいところだった。
顔の近くについたシャルルの腕に、唯斗は顔をすり寄せる。すぐに、シャルルもその手を唯斗の頬に滑らせた。
「…さっきシャルルがロマニに相談があるって言ったの、今後のことを確定するため?」
「そうだよ。唯斗が助けを求めてくれた。ガウェイン卿との戦いということだけでなく、俺に、救われたいと願ってくれた。俺はあんたの手を取ることができた。だから、この先もそうして手を携えて生きて行けると思った。その覚悟を伝えたんだ。ドクターは、元から検討していた脱出計画を本当に実行できるよう手配してくれることになってる」
先ほどシャルルがロマニに相談したのは、かねてから検討していた今後のことを確定し、実行に移せるようにするためだった。
「…ロマニにも、礼を言わないとな」
「ダ・ヴィンチちゃんにもな、俺たちの関係まで先回りして考えてくれた万能の天才だし」
シャルルはいたずらっぽく言うと、ローションのボトルをサイドテーブルに置く。その音が合図になったかのように、シャルルは纏う空気を変えた。
爽やかな紺碧の瞳は、どこか大人びた男のそれになり、唯斗を甘く見つめる。
溶かされそうな目線に耐えられず目を閉じると、途端に、唇を塞がされた。