Sunset Undead−24


翌日から早速、変異株の解析が始まった。

パーシヴァルが慎重に屋外に点在するいくつかの死体から検体を採取してくれたおかげで、発症が著しく早い変異株を同定し解析を始めることができた形だ。

テレビでは、すでにミュンスター、ゲッティンゲン、オスナブリュック、バイロイトなどでも感染が確認されたことが発表されており、ノルトライン=ヴェストファーレン州、ラインラント=プファルツ州、バーデン=ヴュルテンベルク州、バイエルン州、ヘッセン州、ニーダーザクセン州、ハンブルクでの感染者は朝の時点で5000人以上となっている。

高速道路は軍が封鎖しているが、広大な平野を通して移動した人々から感染が広がり、徐々に封じ込めができなくなっている様子だ。
ベルリンでは早くも戒厳令が敷かれているものの、市民が国会に集まって、感染者を殺せとデモを開いている。

実は現在、EU各国では、感染者を殺害できずそのままにしている。軍や警察が襲われて危険な時、非感染者を救出するために必要な時に限り、無力化を可能にしているが、それこそゲームのように安易に銃殺することはあり得ない。
彼らはゾンビではなく患者であり、殺害する法的根拠が存在しないのだ。

中東では容赦なく殺害されているようだが、それでも急速に感染が拡大しており、殺害すらできないでいる欧州はなおさら感染が広がっていた。

そんな中、唯斗とシグルドは、まずは検体の全ゲノム解析を行いつつ、別の検体を直接手で解析して調査を進めることにした。


この研究所は、19世紀に建てられた瀟洒な旧館と、2000年代に建てられた近代的な新館とで構成されており、旧館と新館は渡り廊下でのみ接続されている。
旧館地下には80年代の古いBSL-4施設があるがこちらは閉鎖されており、今は新館のBSL-4施設が稼働している。

その新館のBSL-4施設において、唯斗はシグルドや他のスタッフとともに防護服を着用し、天井から伸びる酸素吸引用ロープで吊るされたような形になっている。
そして、キャビネットに手を突っ込んで、そのキャビネットの中でウイルスの検査を行うのだ。

いつになく集中して作業に没頭していたからか、監視室のアナウンスにハッとする。


『規定時間になりました。全スタッフは退室してください』

「…マジか」


作業時間は規定があり、監視室で常にモニタリングされている。この部屋自体、二人一組で互いに監視・サポートしながらしか作業できないようになっている。


「随分と集中していたな。国内のスパコンを総動員して、このウイルスの解析にプライオリティを設定している。明日にも結果が出るだろう」

「そうだな、いったんそれを待つか」


互いに異常がないことを確認してから、二人は部屋を出て通路に入る。その通路で薬液シャワーを浴びて、次の扉を開けて更衣室で防護服の着脱を行う。慎重に防護服を脱いでから、次の部屋で全裸の状態でシャワーを浴びて、最後に普通の更衣室で自分の服に着替える。その後ようやく一般通路に出られた。
通路は建物の外壁に沿ってぐるりと囲んでおり、BSL-4設備の部屋は廊下の内側にある。当然窓は面していない。

廊下には窓もなく、外の様子は窺えないが、腹の感覚からして昼時だろうか。


「遅めの昼食といったところだな。当方は旧館に戻るが、どうする?」

「あー…俺はドクター・カッシーラーに増殖機構のことで確認したい点があるから、先行っててくれ」

「了解した。根を詰めすぎるなよ」


シグルドは先に渡り廊下が旧館へと戻っていく。それを見送ってから、唯斗は別の研究員のいる新館階下の研究室に向かった。

階段を下りた2階の一室にて、扉をノックするも反応がない。扉を開けると誰もいなかった。やはり昼時のため旧館に行っているのかもしれない。

仕方ない、と唯斗も旧館に戻ろうとした、その時だった。


階下から突然、大きな物音が聞こえてきたのだ。扉に何かが繰り返し衝突するような音だ。
屋外からのもののようで、唯斗はいったん研究室に入って窓辺に寄り、地上階の外側を見てみる。

そこには、何かを叫びながら必死に扉を叩く男性と女性の姿があった。どうやらどこかから逃げてきた者たちのようだ。この施設が感染症研究をしていると知っているのか、ピンポイントでここに助けを求めてきたらしい。



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