Sunset Undead−25
しかし、その扉は非常口であり閉め切られている。さらに、音を聞きつけて、坂の下のフェリーターミナルから感染者たちが集まり始めていた。
唯斗は彼らをすぐに招き入れようかと思ったが、男は銃を持っており、近づいてくる感染者に向けて発砲する。
さすがに銃声は防音のここにも聞こえてきている。
だが数発の銃弾では到底足りず、感染者たちは無理やりな脚力で飛び掛かり、呆気なく、二人揃って噛まれた。
その痛みが壮絶だったからか、感染者の力が強すぎたのか、あるいは両方か。ついに扉は破損して内側に倒れこんだようで、窓からは見えなくなった。
同時に、階下から扉が破壊され、絶叫が聞こえてくる。まだ意識があるようで、痛みに喉が切れそうなほどの叫び声をあげていた。
しかし扉が外れて倒れたことで逃げ出すことができたのか、避難者のどちらかが階段を駆け上がってくる音が聞こえてくる。
慌てて、唯斗は研究室の扉を閉めて鍵をかけた。
直後、部屋の前を通り過ぎたその人物が倒れる音が聞こえてくる。その数秒後、再び起き上がる衣擦れの音が廊下に響いた。
加えて、追いかけてきたのか、階段の方から何人もの感染者が上がってくる音が聞こえてきた。
「…ッ、」
息を飲んだが、声を発するのは耐える。ここにいるのがバレるのはまずい。
唯斗はテーブルに置かれた電話機を、コードが切れないように急いで引っ張って窓辺へと持っていき、できる限り廊下から離れた場所で受話器を手に取る。
昨日よりはいくらか通話ができるようになっていることを祈りつつ、パーシヴァルの番号をダイヤルする。震える手を叱咤して受話器を耳に当てると、すぐにパーシヴァルが出た。
『唯斗?どうかしたかい?銃声が聞こえたけれど』
「新館の地上階、非常口から感染者が入ってきた。今2階のドクター・カッシーラーの研究室にいる」
『なっ、新館にも地上の出入口があったのか!?』
どうやらパーシヴァルは昨日の見回りの際、旧館の出入口しか見ていなかったらしい。旧館は古い建物のためあちこちに出入口があるのだ。
一方、新館はBSL-4設備があることもあって、地上での出入口は桟橋側の坂道に面した非常口のみ。ほかは旧館からの渡り廊下でしか、新館との行き来はできないようになっている。案内したスタッフも失念していたのだろう。
『感染者は2階にもいるんだね?』
「階段から上がってきてる。今いる部屋から渡り廊下までの間に階段があるから、出られない状況だ」
『では3階の渡り廊下から向かう。私が合図するまでそこで待機するんだ、いいね?』
「あ、あぁ」
声が震えてしまった。扉にはめ込まれたすりガラスには、時折感染者が通り過ぎるのが影で見えている。
パーシヴァルは安心させるように電話口で笑った。
『大丈夫、必ず助ける。残念ながら感染者は銃殺してしまうかもしれないが…私は傭兵、君を守るのが仕事であり、現状、人生の主目的だよ』
「…え、」
どういうことかと聞く前に、「では待っていてくれ」と電話は切れてしまった。
かけ直すことでもないため、受話器を電話機に置こうとしたが、そこに、扉がドンと大きく音を立てた。ふらふらとしている感染者がぶつかったようだが、はずみに持っていた受話器を取り落してしまった。
「っ、!」
呼吸を止めて、唯斗は口元を手で覆う。呼吸音すら響かせたくなかった。廊下は一瞬静まり返る。
静寂が続いたと思った直後、扉にまた感染者がぶつかってきた。バンという音とともに扉が揺れて、すりガラスに亀裂が入る。今度は意図的にぶつかってきている。
唯斗は急いで壁際の棚のわずかな影に隠れた。浅い呼吸を繰り返し、手で口元を覆って、ギリギリまで存在を感知されないように努める。
聴覚、および熱源を辿る皮膚の感覚が生きているらしいことは今日の研究で分かっており、遠くの健常者を感知するのが聴覚、近くの健常者を発見するのが触覚のようだ。