Sunset Undead−27


幸い、新館にいたのは唯斗だけだったため、死者もなく全スタッフが旧館にとどまっている。しかし新館の喪失は、この研究所の主要な機能が失われたことを意味していた。

さらに、悪いことというのは続くもので、感染は予想より早く拡大している。

英仏トンネルを徒歩で移動した者たちや強引に船で渡った者たちから、英国沿岸部での感染が散発的に発生し、すでに100名以上の感染者が確認された。
加えて、オランダとベルギーではすでに1万人以上が感染、スイス、オーストリア、チェコ、スロバキア、デンマーク、アイルランド、ポーランドでも感染者が発表された。
スイスに至っては、今日のたった数時間で800名以上が感染していることが明らかになっている。

ジュネーヴのWHO本部や国連施設は建物を封鎖してスタッフの無事を確保しているものの、市内はすでに恐慌状態になっている。
また、リヨンの研究所も停電でうまく稼働できていない。

ロンドンは感染拡大を恐れた市民の大移動が始まったが、空路も海路も国際便が停止されているため、せめて北へ向かおうとスコットランドに殺到している。

当然、米国や東アジアの国々は国際線をすべて停止しており、世界中で国際線空路が消え、世界経済全体が急速に冷え込んでいる。

ラウンジでテレビを見ながら、唯斗とシグルドは状況の悪さにため息すらつけなかった。


「デンマークの感染は、シェラン島、フュン島、ロラン島…陸路でスウェーデンに到達するのは、遅くとも明日までにはってとこか」

「同意する。数日はかかるだろうが、ソルナにも至るだろう。ロンドンも3日以内にアウトブレイクするはずだ」

「ドイツ国内も、ベルリンとザクセン州を除く14州で感染確認。予想よりずっと、人々がパニックになって移動を行っているみたいだな」


事態の展開があまりに早すぎたため、ロックダウンも手間取っているし、警察や軍の動きも洗練されていない。
一方で、市民はパニックに陥っており、まるでSF映画のように車で避難を開始した。バイオハザード系のフィクション映画が多すぎたのだ。そういうものだと市民が考えてしまっているか、そうした映画の記憶と現実がリンクしたことで、とにかく逃げるべきだと判断したのだろう。

インフルエンザなどと違って、クリーンな地域からの移動はそこまで問題ではない。だが、感染があり得る地域からの移動は完全に止めるべきだった。
高速道路や主要道路を閉鎖していてもなお、人々の移動の方が早かったのが敗因だろう。


「ベルリンは明々後日には、ってとこだな。感染者を射殺するよう求め、ロックダウンに反発するデモが続いてる。一度広まればすぐか」

「…どうする唯斗。せめて君には研究を続けてもらいたい。だが、ハンブルクだけでなくマールブルク、ベルン、リヨン、ロンドンはすべて危険だし、ソルナ、チェホニーン、ミンスクも時間の問題だ。イタリアやロシアもどうなるか…」

「いや、ソルナに行く」


しかし、唯斗はすでにどこへ向かうか決めていた。今からアメリカに渡るのは難しい。それに、唯斗ができることは多くない。だからこそ、一人でも助かるようにするべく、ECDCに協力することにした。
シグルドは想定内だったようで、「承知した」と笑顔で返した。


「当方からドイツ軍に連絡を取る。軍用機でハーグソルトのスウェーデン空軍基地まで飛び、そこからスウェーデン軍の軍用機でソルナのカロリンスカ研究所付属病院のヘリポートまで行けるだろう」

「問題はここからドイツ軍とどう合流するか、ってとこか」


旧館に屋上はなく、建物の外は敷地内にも感染者が入ってこられる状態のため、ここで合流することはできない。
恐らく、正面の桟橋で軍の船に乗って、ハンブルク・フィンケンヴェルダー空港に向かうというのが順当なところだろう。



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