Sunset Undead−28


その後、シグルドが連絡を取り、ただちにドイツ軍が唯斗の迎えに来ることになった。
ただ、やはり研究所での合流はできないことと、正面の桟橋はあまりに感染者が多すぎることから、西に1キロ離れたアルトナ港ドックラント桟橋を軍から指定されていた。
ドックラントは大型船も停泊できる大きな商用港であり、港の周りにはバルコン公園という巨大な川沿いの公園があり、さらにそこから北の方角に向かって真っすぐ共和国広場という公園がある。この公園にはアルトナ区役所があり、さらに公園の先には西のターミナルであるハンブルク=アルトナ駅が続く。

ドイツ軍はこのバルコン公園から共和国広場、区役所、アルトナ駅までの区画を確保しており、道路を封鎖してクリーンゾーンを構築している。
市内西部の市民を救出する砦のようになっており、ハンブルクでの活動の拠点となっていた。

市内に散会する部隊は、これ以上の拡大を食い止めるために必死に活動しており、人手が足りない中で唯斗のためだけに部隊を派遣することは現実的ではない。
唯斗にはパーシヴァルもいるため、その点についてはそれでいいと申し出てある。


「ということでパーシヴァル、たった1キロだけど…長い1キロになるな、これは」

「そうだね。だが必ず守り切る」


パーシヴァルはすでに準備できているようで、いつものライフル銃を用意してリュックを背負っている。唯斗も必要なものをまとめたリュックだけを背負って、すでに外に出る準備はできていた。
シグルドはドイツ軍とECDCに話をつけてくれており、ECDCを通してスウェーデン軍にも話が行っていることだろう。心配そうにエントランスまで見送りに来てくれている。


「くれぐれも気を付けてくれ。ソルナに着いたら、こちらで解析したデータを送ろう。君のことだ、mRNAの特定のため、標的を探す研究に没頭するんだろう」

「あぁ。結局、また世界を救うのはアメリカ様になるんだろうけど…誰でもいいから、このウイルスを駆逐する術を見出してくれればそれでいいんだ」

「そうだな。我々はワクチン製薬企業ではない、そこから先は疫学だけの話ではないからな。期待している。パーシヴァル、頼んだぞ」

「あぁ、任せてくれ」


最後に唯斗とパーシヴァルは、それぞれシグルドと握手を交わして、バリケードを慎重に外して扉を開く。
外には感染者の姿はなく、そっと玄関を出ると、内側から再び玄関は閉鎖された。


「…では行こうか。なるべく足音を立てずに、呼吸は落ち着かせて」

「わかった」


唯斗はパーシヴァルに続いて階段を下りて、敷地の外に出る。そしてゼーワルテン通りを左に向かって歩き始めた。
街路樹が生い茂る道は、今ではひっそりと静まり返っている。時折、遠くから悲鳴が聞こえてくる。閉じ込められていることに耐えられなくなって外に出たのか、侵入されてしまったのか。

音に感染者が反応することは一般レベルでも周知されつつあるようで、サイレンの音も聞こえなくなっていた。報道ヘリの姿もない。

まるで誰もが死に絶えたかのようだが、息を殺して耐えているが故の静寂だと信じたかった。

新館を過ぎて交差点に出ると、ダーフィット坂という階段から川沿いの大通りに降りていく。正面には第十桟橋が見えていたが、やはりいまだに桟橋には感染者がうろうろとしている。ただ、死体の数は昨晩より増えていた。

4車線の大通りは、もうさすがに車を走らせている者はおらず、乗り捨てられた車が残っている以外、動くものは感染者だけとなっている。
桟橋に集まっていた群衆が残していった荷物やゴミ、転がる死体を避けて歩いていく。



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