Sunset Undead−37


ほとんどの時間をラボで過ごし、ECDCやWHO、各国の保健当局や日本の厚労省からの助言の要請に応じて電話や会議を間に挟むような日が、さらに3日続いた。

状況は加速度的に悪化している。ネズミ算式に増える感染者が特異点を越えつつあるのだ。

ソルナに来て6日が経過した時点で、スウェーデン国内の累計感染者数は100万人を突破。一日で60万人の新規感染者が出ている。スウェーデンの人口の1割が感染したということである。
世界全体では1億2000万人が感染し、エジプトに続いてチュニジアも政府が崩壊して軍が臨時政権を担っている。米国は地中海の主にアフリカ地域での救援を進めているが、輸送艦1隻で感染が広がり500名以上の米兵が感染した。ファビピラビルによって半数は存命しているが、米国世論も欧州での感染者の殺害禁止に批判が高まっている。

ベルギーは人口の2割、ルクセンブルクに至っては人口の半分が感染。ベルギー王室に続いて、英国、オランダ、ルクセンブルク、スペイン、スウェーデン、デンマークの王室は米国やカナダに退避し、ノルウェー王室は北部トロムソ市に移動した。

イスラエルは、ついに暴動を起こしたガザ市民が感染者も交えての検問所襲撃を行い、ナハル・オズ検問所が破壊され、大量の感染者がイスラエル領内に侵入。スデロットやネディボトが陥落し、イスラエル軍はガザ地区を空爆して市民と感染者を虐殺することで波を防いだ。それでも感染が始まったため、ベエルシェバ市民の脱出とアシュケロン防衛ラインによるネゲブ砂漠での封じ込めを図った。


そして、ソルナに来てから1週間が経った今日。
恐れていた事態が立て続けに発生した。


「失礼します、ドクター雨宮いらっしゃいますか?」

「どうした?」


研究室の扉をノックするなり入ってきたのはECDCの担当者だ。デスクから顔を上げると、焦ったように矢継ぎ早に報告した。


「イタリア政府が消息を絶ちました。EUでは現時点をもってイタリア政府の崩壊を確認。イタリア軍は勝手に感染者の殺害による市民の救援を宣言していますが、欧州委員会が代わりに文民統制を行えるよう調整しています」

「…、ローマとミラノは」

「都市機能を喪失、インフラも全土で停止しました。加えて、ドイツも電力供給を維持できなくなり、ベルリンを含め全国的に停電しています」

「欧州で稼働しているBSL-4ラボは、ここの他にはロンドンとポートンダウン、ベルンだけってわけだな」


イタリアは昨日時点で感染者800万人を超えており、今日中に1000万人を突破すると思われる。首都ローマや大都市ミラノなど主要都市は軒並み壊滅状態であり、イタリア国内2か所のBSL-4施設もこの2都市にあった。
現在、イタリアは政府が崩壊し国会議員も連絡がつかず、もはや民主主義国としての機能を喪失。軍を欧州委員会の統制下で動かそうとしている。
また、ドイツで稼働していた残りのBSL-4ラボがあったベルリンとマールブルクを含め、ドイツ全土も停電している。研究所も稼働できない状態だろうし、停電する恐れがある中で研究を続けるのは危険すぎる。

こうなると、英国で感染症研究ができるBSL-4ラボであるロンドンの2か所と南部の軍用研究施設群が立ち並ぶポートンダウン、そしてスイスのベルン郊外の研究所だけが、カロリンスカ研究所以外で残された欧州の研究所となる。


「原発使っておけば電力は保てただろうに…クソ、英国の状況は?」

「正直、ロンドンの2施設も限界です。英国も感染者数200万人を超え、ロンドン市内は荒廃しています。スイスも…その、WHO本部ビルの地上階が突破され、職員の緊急退避が行われていると…」



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