brise de printemps 2−6
ちょうどアヒージョを作り終え、マッシュポテトに味付けをしてポテトサラダとして、チョリソーも焼いたところでシャルルが戻ってきた。
玄関の開く音がしてすぐ、キッチンの横を通り過ぎてリビングに向かう。
「おかえり」
「…ただいま!」
なんとなくそう声をかけると、シャルルは一瞬キョトンとしてから、顔を輝かせて返した。そして、そのままキッチンに入ってきて唯斗を後ろから抱きしめる。
「唯斗〜」
「なんだよ」
「なんか今の結婚したみたいじゃねー!?」
耳元で若干うるさいが、前に回ったシャルルの腕と背後に感じる温もりに、先ほどの自分と同じ思考回路だと分かって、おかしくも嬉しく感じられた。
「…ぶっちゃけ、俺もさっき一緒に作ってるとき、同じようなこと思った。クソ恥ずかしいから言わなかったけど」
「俺は言っちゃうもんな〜」
そう言いながら軽いキスまでしてきて、わりとこいつ浮かれてるな、と思わず苦笑する。ただ、そうして感情を示してくれることが、とりわけ唯斗には安心できる。こんな旅に付き合ってもらってしまっている、という後ろめたさを、シャルルがこうして払しょくしてくれているのだ。
「はいはい。ちょうどできたところだから食べるか」
「おう!あ、ワイン買っといたぜ。スパークリングの、カバ?ってやつ」
「飲みきれる…か、シャルルいるし」
シャルルは気を利かせてワインを買ってきてくれたらしい。有名なスパークリングワインだ。さすがにボトルを持ち運ぶのは難しい旅路だが、今晩で飲み切るのは、サーヴァントであるシャルルがいるからには問題ないだろう。
料理を運び、ワインを備え付けのグラスに注ぐ。あまり綺麗なグラスではないが、白ワインでもないため特に気にならない。
テーブルに並べ着席したところで、シャルルは元気よく手を合わせた。
「いただきまーす!」
「いただきます」
藤丸たちがやっていた日本式の挨拶は、その背景を聞いてシャルルもやるようになったとカルデアで言っていた。唯斗もいつしか、藤丸に影響されて言うようになっていた。
アヒージョのエビを口に入れる。味見した通り、想定内の味付けだ。ピュアオリーブオイルとエクストラバージンオリーブオイルを使い分けるというエミヤのアドバイスによって、オリーブオイルのえぐみは感じない。
「うっま!アヒージョめっちゃうまい!ポテトサラダの味付けもチョリソーと合っててちょうどいいし、すげーパン進むな!」
目をキラキラさせて喜ぶシャルル。どうリアクションするのが正解か分からず、とりあえず「ありがとう」とだけ返しておいた。
シャルルは気にせずパンを食べ進め、ワインを一気に飲み干す。英霊でなくとも、ボトル一本くらいでは酔わなさそうだ。
「自信ないとか言ってたのに、マジでおいしいじゃん」
「確実にできる、ってところから始めたわけだしな。今後は難しい料理にも挑戦するだろうし、そんときは失敗するかも」
「俺も一緒に作るから、失敗するときは連帯責任だな。頑張って全部食おうぜ」
笑って言ったシャルルに、唯斗は少し気が楽になった。失敗を気にするな、ではなく、一緒に失敗して頑張って食べきろう、と言ってくれているため、「失敗しないように頑張る」から「失敗しても頑張って食べる」という別の覚悟になり、それなら肩肘張らずに済む。
こういう言葉が素で出てくるところが、シャルルらしい。
「…シャルルのそういうとこ好きだよ」
「うえっ?!酔った!?」
「まだそんな飲んでないっての」
珍しく直截な言い方をしたからか、シャルルは驚いていた。少し酒の力を借りた側面はあるが、酔っているわけではない。
「まぁでも、明日に響かない程度に今日は飲むかな」
「俺耐えられるかな…」
「酒飲んだ日はダメだからな」
「分かってるさ。頑張る」
だいたい昨日もしたばかりだろうなんて思ってしまったが、さすがに食事中のためここまでにしておく。
そうして食事も終えて、ワインはシャルルが飲み干し、唯斗がシャワーをしている間に片づけと食器洗いをシャルルが買って出てくれた。
そこまで飲んだわけではないものの、久しぶりにしっかりアルコールを摂取したこともあり、シャワーをすると酔いが回る。足取りに響くようなことこそないが、気分は良かった。
髪を乾かし脱衣所を出ると、シャルルはリビングのソファーでくつろいでいた。テレビを付け、翻訳礼装のスクロール紙を持って見ている。