brise de printemps 2−10
翌日、二人はサンティアゴ南部の大規模なショッピングモールにやってきた。
「駐車場無料じゃん」と言いながら車を入れていくシャルルに、いよいよ現代人じみてきたな、と思ってしまう。
駐車場に停車して車を降りると、平日の変な時間ということもあってあまり車の台数はなく、人もまばらだった。
そして、からっとした暑さが肌に感じられる。
「やっぱこの辺は暑いな〜。でもそんな砂漠近くないよな?」
「北の砂漠の方が涼しいんだよ。太平洋の寒流がぶつかるのはもう少し北側の地域だから」
不思議なことに、南北にあまりに細長い上に南半球にあることもあって、チリという国は首都のある中央部が一番暑い。
北部の砂漠地帯は寒流が運ぶ冷気によって夏でも冷涼であり、南部のパタゴニア地方は極地に近いため年中涼しい。
「そっか。じゃあ、あんま涼しい服を選ぶ必要はねーのかな」
「一応、ところによっては30度超す場合もあるから、夏服は用意しておこう。次の大都市はペルーのアレキパ、4日間は最低でもかかる。ずっと砂漠が続くから、動きやすい服と、紫外線対策の日焼け止め、サングラス、あと水と靴と下着と…」
そう口にしながら買うものを考えつつ、駐車場からモール内に入っていく。すると、シャルルは壁に貼られた観光ポスターに目を輝かせた。
「なぁ唯斗!ここ寄ってみねー!?」
「え…これ、アタカマ砂漠か」
視線を上げてシャルルが示したポスターを見遣る。そこには、満天の星空が荒野に広がる印象的な写真が大きく掲載されていた。
「アタカマ砂漠には、世界最大規模の国際天文台の一つがある。地球で一番、星空が綺麗に見える場所ともいわれるな」
「へぇ〜!せっかくだしさ、寄り道できねーかな」
「そうだな…コピアポからアントファガスタまでは短めの走行時間を予定してたし、アントファガスタからそのままサンペドロまで直行しても、10時間、11時間ってとこか。うん、イキケまでも問題なく行けそうだから、いいぞ。行ってみるか」
「よっしゃー!!」
明日、サンティアゴからアタカマ州の州都コピアポを目指す予定である。コピアポの次は、少し短い6時間ほどの走行時間でアントファガスタ州の州都アントファガスタに行き、翌日は同じく6時間ちょっとかけてアントファガスタからタラパカ州の州都イキケまで走る。
コピアポからイキケの間に、アントファガスタではなく、アントファガスタ州東部の観光都市サンペドロ・デ・アタカマ市まで向かうのであれば、寄り道できるだろう。
サンペドロ周辺には国際天文台があり、その気象条件は世界で最も美しい星空が見られるとして有名なのだ。
「一応これ、逃亡生活なんだけどな。全然追いかけてこないな」
「もちろん油断はしないさ。魔術師じゃパタゴニアはきつすぎて追いつけてないだけかもしれねーしな。でも見た感じ、アタカマ砂漠くらいの辺境だったら時計塔も見つけられなさそうだ」
「こういう大都市にいる方が却って見つかりやすいってのはあるかもな」
南極からここまで、一日10時間かけて走り続けて移動していたのは、いち早く南極から離れて逃げるためだ。しかしまったく魔術師と出くわすことはなく、隠密生活を迫られているわけでもない。
唯斗たちを気にせず追いかけていないのか、追いついていないのかは分からない。まだ一週間ほどしか経っていないからだ。
聖杯が持ち出されていることは時計塔も知らないため、すでにサーヴァントは退去して唯斗一人になっていると判断する頃合いである。だがカルデアを疑って、現界を続けている可能性もまだ捨てていないだろう。
「まぁでも、ティアマトとか倒したんだし、魔術師とか今更敵じゃねーよな」
「例が極端すぎだけど…まぁ、サーヴァントの中でもシャルルが一緒なわけだしな。慢心はしないけど、極端に恐れることでもないな」
あっけらかんと言ったシャルルの言葉は少し極端だが、それは一定の事実だ。これまで戦ってきた相手に比べれば、人間の魔術師であればそこまで敵だと思えない。
あるいは、向こうもそう思っているからこそ、こちらに手を出そうとしないのかもしれなかった。