brise de printemps 2−11


2時間ほど買い物をして、ついでにショッピングモールで昼食を済ませてから、午後の時間でコスタネラセンターに行くことにした。
これもモール内のポスターを見てシャルルが気になったもののようで、せっかくならということで、買い物終わりにその足で向かう。

コスタネラセンタービル、グラントーレ・サンティアゴとも呼ばれる超高層ビルであり、南米で最も高く、南半球でも2番目に高いビルである。
高さ300メートル、概ね横浜ランドマークタワーと同じくらいの高さだ。

車で足元に近づいてきた時点で、シャルルはテンションを上げる。


「すげー!でっかい建物ばっかだな!てかバベルの塔みたいじゃねぇ!?」


コスタネラセンター周辺の中層ビルだけでこのテンションだ。東京や上海、ニューヨークを見たらどうなってしまうのだろう。コスタネラセンターだって、南米で一番高いだけであり、北半球には同じ高さのビルがひしめく都市がいくつもある。
とはいえ水を差す必要もない、唯斗は冷静に駐車場の位置を示して道を案内し、スムーズに商業施設の地下駐車場に進入させる。

そのまま商業フロアにエレベーターで上がり、さらに展望台直通の高速エレベーターに向かうチケットを購入する。やはり平日の昼過ぎということや、消えた2016年問題で混乱する世相にあって、あまり観光客の姿は見受けられない。

エレベーターも二人だけで乗ることになり、扉が閉められると箱は急上昇する。僅か2分で62階の展望台に到着することになる。


「うお、すげー!耳!なんだこれ!」

「軽く鼻つまんで息を鼻から出そうとするといいぞ」


気圧の変化に驚くシャルルだが、そもそも英霊も耳が変になるものなのだろうか。とりあえず試していたシャルルは「治った!」と元気よく申告したため、まぁいいか、と気にしないことにした。

そうして扉が開くと、すぐ目の前にガラス張りの壁が見える。もうその先には、盆地に広がる大都市のパノラマがあった。
さすがに人がいることもあってシャルルは抑えめではあったが、それでも「おおお!」と声を上げて窓に駆け寄っていた。

後ろから続くと、窓に張り付いたシャルルは外の光景を指さす。


「すげー!あんな遠くまで見える!山でもないのに、こんな高いところから見渡せるなんてな!当世の人ってすげーんだな!」


夏ということもあって、遠くに広がる山々の稜線は霞んでいる。都市全体がぼんやりとしているのはスモッグによるものだ。冬よりはマシであるものの、そこまでくっきりとはしていない。

それでも、広大な大都市の向こうに山々が連なる雄大な光景は、南米らしいダイナミックなものだ。

各方位を見て回るべく歩き始めると、シャルルはふと、自撮りをしているカップルに気づいたようだ。じっとそのカップルを見たあと、こちらを振り返る。


「な、俺たちもやろうぜ、あれ」

「自撮り?別にいいけど、俺やったことないぞ」

「なんとかなるって!」


唯斗はとりあえずスマホを取り出す。といっても、このスマホはどの回線にも繋がっていない。地図は車のもので十分だし、必要な知識は聖杯からシャルルにインストールされる。貨幣は聖杯が自動的にその国のものを出してくれるし、翻訳礼装があるため通訳機能も不要だ。

結局、何に使うでもないただの高性能な板なのである。たまたま充電が続いていたため機能している。

唯斗は初めて使うカメラ機能で、画面を内側にしたまま手をかざす。背後の窓の外の景色を写しながら二人で入ろうとするが、意外と二人揃って入らない。
するとシャルルは、唯斗の肩をぐっと抱き寄せた。一気に距離がゼロになり、二人は画面内に入る。


「…、じゃあ撮るぞ」

「おー!」


ぱしゃ、と音がして撮影に成功する。タップして見てみると、意外とちゃんと撮れていた。


「これでずっと残るな」

「…残る」


そうか、と唯斗はようやく思い至る。なぜこうして写真を撮るのか。思い出を残すという目的であることは理解していたが、残したい思い出など考えたことも感じたこともなかった唯斗には縁がなかった。

シャルルと二人、南米で最も高いビルからの景色を背後に映る写真は、これからもずっと残るのだという。


「…そっか、この瞬間が、ずっと残るのか」

「スマホが壊れない限りって話だけどな〜。乱暴に扱っちゃダメだぞ」

「……ん、そうだな。大事にしないとな」


たった一枚、たった数MBのデータ。
それなのに、その一枚が入っているというだけで、手元のスマホが急に大切に思えてきたのだった。



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