brise de printemps 2−12
サンティアゴを出た日のうちに、アタカマ州の州都コピアポに到着。一泊して、アントファガスタを経由してカラマに向かう道を走っている。カラマは世界最大の露天掘り鉱山チュキカマタのベッドタウンであり、カラマの先にサンペドロ・デ・アタカマがある。
「なんか、マジで違う惑星みたいだな」
「ほとんど無植生に近いからな。まったく雨が降らないし」
窓から見渡す砂漠は、岩がちで起伏にとんだ地形をしているものの、一切植物の影がない。海に近いところを走っているときは灌木も見られたが、内陸の標高が高い方へ向かうほど、生き物の姿が見られなくなっていた。
それほど極端に乾燥しているのである。
「パタゴニアより辺境感あるけど、パタゴニアより途中の村や街が多いよな。道路はこっちのが快適だし、電柱とか人工物も多いし」
「あぁ…この辺は鉱業が盛んだから。世界最大のリチウム生産地で、銅山も多い。そういう鉱山で働く人のための街が多いんだ」
「へぇ〜。あ、サンドイッチ食べていい?」
「はいはい」
唯斗は後部座席からバスケットを取り出し、サンドイッチを取り出す。朝のうちに作ったもので、昼食や軽食のために用意しているものだ。今日はアントファガスタで昼食を取る予定だったため、軽食用として作っておいた。
唯斗はアントファガスタで食べた昼食で満腹だったが、シャルルは精神的な疲労を唯斗が作った軽食で軽減させている。
普通に車を停めて休めばいいのに、と唯斗は再三言っているものの、シャルルは運転中に助手席から唯斗が手ずから食べさせることにハマっているらしい。
食べやすいよう幅を細くしている長方形のサンドイッチをシャルルの口元に運ぶと、シャルルはぱくりと一口で半分ほどを口に入れた。しばらくモグモグとしてから、あ、とまた口を開けたため、もう半分を食べさせた。
一瞬で食べてしまって気がまぎれるのか、そもそも腹の足しになるわけでもない英霊の体で意味があるのかなどいろいろ思うが、シャルルのにっこりとした顔にすべてどうでもよくなる。
「唯斗のポテサラ美味いよな〜。味付けめっちゃ好み」
今のサンドイッチがポテトサラダを挟んだものだったため、シャルルはそんな感想を口にした。
「俺が食べたい味だから、同じ好みってことだな」
「お、あれじゃん?夫婦は好みが似てくるってやつ」
「な…っ、」
さらっと言ったシャルルに、久しぶりに唯斗は顔に熱が上がるのを感じる。四六時中一緒にいるだけあり、大半の言動に慣れた唯斗だったが、こういう不意打ちにはまだ弱い。
「照れた?」
「うるせー…」
「かわいいなぁ」
誤魔化すように水を少し飲む。次のカラマまでまだ2時間あるため、あまりトイレが近くなるのは避けたい。
「この調子なら、19時過ぎにはサンペドロに到着できるぜ。カラマからサンペドロまでは休憩ポイントねーから、30分くらい休憩取るかい?」
「あー…いや、トイレいければいい」
「分かった。サンペドロ着いたらすぐホテルとるか。晩飯どうする?」
「サンペドロは小さな街だからな、今日はレストランでも入ろう。そんで、夜遅くに車出して星見に行くか」
夏で緯度が高いこともあり、この辺りは20時ごろまで空が明るい。これまで10時間の強行軍で荒野や辺境を駆け抜けることができたのは、夜遅くまで明るく、街灯がない道でも走ることができたためだ。
サンペドロに到着してもまだ空は明るい。いったんホテルをとるが、キッチン付きの宿泊施設を見つけるのが難しそうであることもあって、普通のホテルをとってレストランで済ませることになる。
「…天文台には、カルデアの出向者がいる。各地の国際天文台にいるからな」
「え、そうなのか」
「とはいえ、天文台のスタッフは本当に天文学の職員として働いてる。あんま気にしなくていいし、時計塔も監視まではしてないと思う。接触する必要はない、ってだけ」
「分かった。でも一応、天文台の方には行かないようにしようぜ」
「そうだな。天文台は街の南東にある。南西の山間に行くか」
「おー!楽しみだな」
見るからにウキウキとしている。星空であれれば、中世前半の欧州だってそれなりに見えただろう。だが、星空は水蒸気が少なければ少ないほど見えるため、湿潤な欧州では限界がある。
標高が高いため空気が薄く、かつ極度に乾燥したアタカマ砂漠は、まさに理想的な環境だ。唯斗も、待っている光景が少し楽しみになってきた。