唯一と一番−2


ルルハワにやってきて3週目、それぞれの作業にも慣れ、全体の進捗のイメージや一日の作業ペースなども分かってきたためか、各自余裕が出てくるようになった。
唯斗も慣れたようにLANケーブルの配線などをスイートルームで行い、これから始まる7日間の準備を手際よく進めていく。

その様子を見て、ロビンはスケジュール表だけ簡単に作成すると、ソファーから立ち上がる。


「よし、じゃあ今回は序盤の隙間時間を楽しませてもらうとしますかね」

「ロビン殿はお出かけですか?」


牛若丸が尋ねると、ロビンは楽し気に頷く。


「おー。ちょっくらナンパでもしますよ」

「ナンパ、ですか?」

「えー、ロビンそれいいの?」


すると、ロビンの言葉に藤丸が早速訝しげにする。長いこと一緒に旅をしてきたためか、藤丸は唯斗とロビンが交際するとなったとき、ロビンに「泣かせたら私のランサー勢でボコボコにするから」と圧をかけていた。
そのため、ナンパすると言ったロビンに疑念を抱いているようだ。


「あぁいや、さすがにステディなヤツではねぇさ。ただこう、コミュニケーションというか、駆け引きというか、そういうこと自体を楽しむもんであってだな、別に浮気とかではないんですわ。趣味みたいなもんです」

「でもお楽しみなんでしょ?浮気じゃん?」

「あたしもマスターに同意。キスもせずに健全なお別れができるのかしらね」

「浮気は重罪ですよ、ロビンさん。しかるべき措置を検討する必要があります」


シッティングスペースの大きなソファーに並んでいた藤丸、ジャンヌ・オルタ、マシュが相次いで問い詰めると、さすがにロビンもばつが悪そうにする。そこで、藤丸はポーズ集の本など資料をテーブルに置いていた唯斗の方へ視線を向けた。


「唯斗はいいの?」

「?別に…ロビンが言う通り趣味なんだろ。俺との関係が阻害するようなことじゃねぇと思うけど」

「え!?」


その唯斗の答えに驚いたのは、素っ頓狂な声を出した藤丸だけではなく、当のロビンもだった。


「あー…その、マスターはどこから浮気とかあるんです?」

「どこから、って言われても…浮気だと思って浮気したら、とか?」

「ええ…気にならないんです?」

「俺はロビンの自由を奪いたくてこういう関係になったわけじゃないしな。せっかくサーヴァントとして現界してるんだし、少しでも好きなように楽しんでくれればそれで」


ロビンが楽しいならそれでいい。本人も、ナンパという行為自体が目的であって、ナンパによって何らかの関係を得ようとしているわけではないと言っていた。それなら別にいいのでは、というのが唯斗の考えだ。
そもそも、恋愛なんてものは一生縁がないと思っていたし、恋人どころか友人だって自分には存在しないと思っていた。カルデアに来てからだ、こんなにたくさんの人とのいろいろな関係を経験したのは。
そんな唯斗には、恋愛の普通など分からない。


「…そーですかい。ま、それならお言葉に甘えますかね。彼氏っつーのも理解があっていいもんだ。じゃ、そういうことで」


ロビンはからっと笑って部屋を出て行ったが、少しその声音は堅かった。苛立っている、というほどではなかったが、どこか態度が固い気がした。
ロビンが出て行ったあと、藤丸は立ち上がって唯斗のところまでやってくる。


「ね、本当にいいの?他の女の子とロビンがイチャついたり、夜を過ごしたりするの。普通、そういうのは恋人がいるなら恋人としかしないもんだよ。もちろんいろんな関係があっていいとは思うけどさ、それはお互いにいろんな関係の意味をきちんと理解して、話し合って同意した上でやることだし」

「恋人になったからって、俺のこと、そんな特別に思ったり他より優先したりする必要ねぇだろ」

「な…、そんなわけないじゃん?恋人は特別だよ」

「恋人って概念が特別でも、俺は特別じゃないって話だ」


グランドオーダー中もしょっちゅう意見の相違があった二人は、これくらいの意見の衝突ではなんともない関係性を築いてきたが、藤丸は虚を突かれたようにしている。


「…藤丸?」

「……あ、ごめん。ちょっとどうしたもんかと思っちゃって…まぁ、どういう関係性になるかっていうのはそれぞれだもんね。外野が口を突っ込むことじゃないか」

「心配してくれたんだろ、それは嬉しかった。ありがとな」

「…もー、ほんとさぁ…ロビンめ……」


なぜかロビンへの恨み節のようなものを漏らしながら、藤丸は作業を開始するためタブレットの置かれたテーブルへ向かう。
意見の違いというより価値観の相違だろう。普通ではない唯斗には、藤丸の言う普通が分からない。それならそれでいいと、そう思っていた。



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