唯一と一番−8
必要最低限の会話だけで過ごしたからか、9週目の7日目、ついにロビンは部屋に唯斗を呼び出した。
いつもこのホテルでは、作業スペース兼女子部屋となっているファミリースイートとは別に、ロビンと唯斗の二人で宿泊する部屋も取っているが、その二人の部屋に呼び出されている。藤丸たちが何も言ってこなかったのは、ロビンがこうすると分かっていたからだろう。
「さすがに看過できねえぞ、マスター。いったいどうしたんです」
「…、それは…」
多くの人を巻き込むのを恐れてホテルにいたのが徒になった。現在時刻は21時過ぎ、そろそろこっそり出て行こうとしていたが、廊下に出たところで見計らったようにロビンが姿を現したのだ。
宝具を使って姿を隠していたらしい。唯斗の様子から、ループ直前に何かあるのだと踏んだのだろうし、それは正しい。
廊下からロビンにあれよあれよと部屋に戻され、二人して部屋の中ほどで突っ立ったまま問い詰められているところだ。
「…ロビンには、関係ないことだ」
「関係ないならもっとうまく隠すこったな。そんだけ様子おかしくて、周りが気にしないわけねぇっしょ」
「ほっとけ」
ロビンの言うことはもっともだ。いたずらに心配させておきながら関係ない、なんて通らない。
「俺はあんたのサーヴァントであり恋人だ。放って置けるか」
「お前がどんな女と遊んでようと俺には関係ないように、俺のこともお前には関係ないだろ」
すると、そんなことが口をついて出てきてしまった。まったく言うつもりがなかった言葉を発してしまい、思わず口を押える。
キョトンとしたロビンは、眉をひそめてなおさら不信そうにする。
「いや、それとこれとは別だろ。あんたの様子、尋常じゃねぇ。そんなこととはわけが違う事態なんじゃないんですか」
「もういいから放っておいてくれよ…」
ちらりと時計を見る。21時25分、もう時間稼ぎは限界だ。ロビンは痺れを切らしてこちらに一歩詰め寄った。唯斗の手を掴もうと腕を差し出し、ついに唯斗は右手に魔力を籠める。
「令呪をもって命じる。動くな」
「な…っ、」
カルデア式の令呪では、そう長いこと拘束できない。もって20秒ほど。しかしそれで十分だった。
唯斗は踵を返すと、テラスに駆け寄ってベランダの窓を開ける。
「…ごめんな、ロビン」
「待、て…唯斗…!」
このままでは隣の藤丸たちまで巻き込む何らかの形で唯斗は命を落とすことになる。最悪、この因果に巻き込んでしまうかもしれない。まだ21時26分になったばかりで僅かに早いが、もう仕方ないだろう。
唯斗は勢いよくテラスを蹴って柵に足をかけると、そのまま外側へと身を躍らせた。
途端に、夜のハワイの空に体が投げ出される。この下には、エントランスの屋根があり、地面にいる人を巻き込むことはない。
落下する直前、目を見開くロビンの姿が一瞬だけ見えた。
しかしすぐにそれも掻き消え、各フロアのベランダが飛ぶように過ぎていく。周囲のビル群がどんどん高く見えていき、眼下の屋根が急速に近づいてくる。生ぬるい風を頬に受けながら、唯斗は目を閉じる。
そして頭から固いコンクリートに叩きつけられて、呻き声のようなものが漏れたかどうかといったその瞬間に、意識が途切れた。
目を開くと、再び空港の床に倒れている。BBは27分まで待ったのか、それとも唯斗が絶命した瞬間にループさせたのか、意識がなくなった唯斗には分からない。
とりあえず立ち上がると、勢いよくロビンに両肩を思い切り掴まれた。
「唯斗!!なんであんなことした!!!」
その怒声は今まで聞いたことがないもので、藤丸たちは唖然としてこちらを見ている。空港はもともとほとんど人影がなかったが、ちらほら視線を感じた。
怒りに燃えた形相で、ロビンは唯斗の肩を鷲掴んで睨み付ける。目の前で自殺されたのだ、こうなるのも無理はない。もう隠し通すことはできないだろう。