唯一と一番−9
「ついにバレてしまいましたね?唯斗さん」
「っ、なんか知ってんのかBB!」
いつも通りふらっと現れたBBは呆れたようにため息をつく。ロビンの眼光もどこ吹く風だ。
「当然でしょう?こうして皆さんをループさせているのは私なんですから。毎回毎回、7日目の21時27分に唯斗さんが命を落とした瞬間に、その週を終えて巻き戻しています。なぜならそのタイミングで唯斗さんが死ぬという因果がこの特異点に成立しているからです」
「え……」
「は?死ぬ因果…?」
藤丸やロビンの愕然とした様子に、BBは感情のない目でメンバーを見渡す。
「私にもこうなった原因は不明です。しかし確かなのは、7日目の夜に雨宮唯斗は必ず命を落とすということ。すでに6回、唯斗さんは死んでいます」
「6回!?そんなに唯斗、死ぬ瞬間を経験したっていうの!?」
「なぜ言ってくださらなかったのですか!?」
藤丸とマシュは驚愕して唯斗に問い詰めるが、ロビンの肩を掴む力が強くなり、唯斗はさすがに痛みで顔をしかめる。
「いっ、ロビン…」
「…なんで言わなかった」
そして、地を這うような低い声で問いかける。それを聞いて、藤丸たちは押し黙る。恋人が自分の知らないところで6度も死んでいたと知ったロビンは、様々な激情が混ざって激高した表情でありながら、努めて冷静に振る舞おうとしていた。
「…藤丸たちに言わなかったのは、巻き込まないためだ。俺以外にもこの因果が発生してしまえば、いよいよ原因が分からなくなる。事象が起きるのが俺の周りだけである方が望ましい」
「俺は、俺に一言も相談しなかったことを聞いているんですよ」
間近に端正な顔があるからか、前髪で隠れた右目も垣間見える。左目同様、鋭くこちらを睨みつけている。
ロビンにこうして怒りを向けられるのは初めてだ。なんと返そうか、どう言うべきか分からず、言葉に詰まる。
何より自分が分かっていなかったのだ。BBに聞かれたときもそうだったが、なぜロビンに打ち明けようと思わなかったのか、自分でもよく分かっていないのだ。
「なぁ、だんまりですかい」
「っ、あ、え、っと……」
何か言わなければ。そう思っているのに、言葉が出てこない。自分でも分かっていなかった感情が、この土壇場で明朗になってくれるはずもなく、もやがかかったそれは依然として姿を見せてはくれなかった。
自分でも分からない。そう言えばいいのだろうか。しかしそんな答えで納得してくれるのだろうか。
言葉が見つからず、声すら出づらく感じた。
「…とりあえず、この週のルーティンこなしましょ。なんであれ、特異点を解決すればいい。その因果とやらよりも前に特異点を修復して帰還すれば一件落着でしょ」
「うん、オルタちゃんの言う通りだね。まずはやること終わらせよう、なんであれ、7日目まで何も起こらないわけだし」
逆に冷静になったのか、ジャンヌ・オルタや藤丸は落ち着いてそう取り成した。ロビンは釈然としない様子ながら、ようやく手を離して、唯斗から離れて藤丸たちに続いて歩き始める。
つい引き留めようとしてしまった手を、唯斗は慌てて引っ込めた。
そこからの7日間は、今までにないほど沈黙が痛かった。ロビンはなるべく部屋の外にいて、作業をする唯斗たちは黙々と、衝撃的な事実を脇に置いてまずは同人誌制作を終わらせることに徹する。
同人誌制作なんていうふざけたことをしているのに、7日目には、唯斗は命を落とすというあまりにシリアスな展開。BBが言っていた通り、温度差がありすぎる。
藤丸はいろいろと言いたそうにしていたが、ロビンに任せることにしているのだろう。刑部姫含め、場が張り詰めないように、意識して空気を和らげる役割を務めてくれていた。
そういう藤丸の気遣いはグランドオーダー中から変わらないもので、それにひどく、救われた。