唯一と一番−10
10週目の7日目になった。
即売会の間からロビンは張り詰めた様子だったが、即売会終了後、唯斗はロビンの監視下に置かれているかのように、行動を見張られていた。
そうやってロビンが気にかけてくれていることにどこか安心している自分がいて、本当にくだらないな、と頭では冷静に思ってしまう。
そうして夜になり、部屋で二人きりになると、シッティングスペースのソファーに並んで座ったロビンが切り出した。
唯斗の左側に座るため、その目は前髪に隠れて見えず、表情は窺えない。
「改めて聞きます。なんで、何度も死んでいることを俺に言わなかったんだ。俺は何度も、どうかしたのかって聞いたはずですよね。それでもあんたは口を閉ざした。なぁ、いったいなんでだ?」
「…、」
やはり声が出しづらい。それでも何か言葉にしなければならない。この数日も考えていたが、結局答えは出ず、それならそう、正直に言うべきだろう。
「…わか、らない。自分でも、なんで、ロビンに言えなかったのか」
ゆっくりなんとか声を出すと、ロビンは僅かにこちらに顔を向けた。唯斗を見遣る目線は感情が読めない冷たいもので、唯斗はびくりと肩を揺らしてしまう。
「分からない?6回も死んでおいて?さすがにこれはおかしい、って分かるだろ、普通」
「…考えても、わからなかった」
「…ふーん。そんだけ、俺への関心がなかったんですかねぇ」
それに対して、ロビンはそんなことを言った。何を言われたのか一瞬理解できず、理解してすぐ、唯斗は慌てて否定した。
「ちが、そういうんじゃ、」
「俺に打ち明けるって選択肢がなかった。俺に関心がなかったか、信用がなかったか。どちらにせよ、サーヴァントとしても恋人としても、あんたは俺がどうでもよかったんだろ」
「ッ、そんなこと、」
「そりゃ、俺がナンパしようと女の子といようと興味を示さないわけですよ。どうでもいいんだもんな」
確かに、6度も死ぬなど大ごとだ。それを自身の唯一の契約サーヴァントであり、何より恋人であるロビンに言わないというのは、自分でも違和感がある。おかしなことだとも思う。
なのに、なぜか唯斗は言う気になれなかった。
それを、どうでもいいと思っていたのだろうと指摘されても、唯斗は反駁する余地がない。何を言っても信憑性に欠けてしまう。
しかし、ここまで言われっぱなしというのも理不尽だ、と思ってしまった。自分が悪いはずなのに、唯斗の中にお前が言うな、という気持ちが湧き上がる。
「っ、どうでもいいのはお前の方だろ、ロビン」
「なんだって?」
「俺よりも、結局は女のがいいんだろ。体も性格も、会話の楽しさも、全部、俺よりも…それこそ、藤丸とかのが付き合うなら良かったんじゃねぇの」
「誰もンなこと言ってねぇっしょ!俺にナンパしてきていいなんてこと言ってきたのはお前だろが!」
声を荒げたロビンに、再びびくりとしてしまう。恐怖を感じるべき相手などいくらでもこれまで遭遇してきたというのに、明確に唯斗はロビンを恐れている。
いや、ロビンが怖いというよりも、ロビンの言葉を恐れていた。
グランドオーダーの中で、ずっとそばで支え続けてくれて、人として欠けばかりの唯斗にも「仕方ないですね」と笑ってくれたロビンに、否定されることを恐れている。
もしもロビンにまで、お前は不要だと言われてしまえば、もう立ち直れる気がしなかった。これまでの人生で、ただの一人にも受け入れられたことなどなかったはずなのに、たった一人に否定されることをこんなにも怖がっている。
「お、れは…ただ……ロビンが、楽しいなら、それで…」
「それで他の女に現を抜かすのを許すのか?普通ありえねぇっしょ」
まただ。また、「普通」。藤丸が言っていたことも分からなかったし、ロビンが言っていることも分からない。
何度も死んでいるという事実を打ち明けられなかった理由も分からない、今ここでロビンになんと言えばいいのかも分からない。
分からないことばかりで、こんなにも自分は何も考えられない人間だったかと呆然としてしまう。
ロビンをこれ以上怒らせて刺激するのが嫌で、何も言えなくなる。喉が引きつって声が出ない。時計は、21時20分を回っていた。また数分速いが、これ以上は唯斗が耐えられなかった。
今からでは窓に駆け寄るのは難しい。サーヴァントの瞬発力を前に、令呪を切る前に拘束されてしまうだろう。
それならば、と、唯斗は右手の指先をこめかみに押し当てる。
「…おい、あんた何して、」
そうロビンが言った瞬間、最大級のガンドを放った。威力として、一瞬で頭蓋骨の上半分を砕いて頭の上側を粉砕するようなもの。大量の輪ゴムを巻いて砕くスイカのようになるはずだ。
無論、その瞬間の意識などない。ガンドを放った瞬間のロビンの驚いた表情を最後に、衝撃を感じるかどうかといったところで、視界も思考もなくなった。