唯一と一番−12


11週目の即売会も終了し、7日目の夜になった。
前回同様にロビンがずっと行動を共にしているが、監視というよりは、甲斐甲斐しくそばで世話をして何か危険はないかと周囲に目を光らせているようだ。

ある意味、これまでのロビンの様子に一番近いかもしれない。

そうして21時。
二人はホテルにほど近いビーチで二人きりになっていた。何をするでもなく、砂浜に二人で立っている。

ロビンはこの7日間で徹底的に周辺を探索し、あらゆる危険やリスクをまとめあげ、すべてを回避するためにここを選んだ。


「たとえどの建物からスナイパーが唯斗を狙っていても俺が気づけるんで。あんたは海の方だけ注目しておいてください」

(金属探知機をエミヤに作らせてたの、まさかこの辺りのスクリーニングでもしてた?)

「お察しの通りですよ。あたりの砂浜に埋まっていた不発弾が爆発、なんてこともなさそうです」


不発弾の暴発からスナイパーによる暗殺、事件、事故、災害、すべてを仮定して事前に調べつくしてくれていた。たとえ隕石や津波が起きても、この広い場所であればすぐに察知できる。


(でも2回目に死んだとき、事故ったトラックがピタゴラスイッチみたいになって、荷台とガードレールの間に挟まったんだけどな)

「…、ピタゴラスイッチになるとしても、起点さえ分かればこっちのもんです。俺は市街地側、唯斗は海側。それぞれ見張って何が起きてもいいように気ぃつけましょう」


何とはなしに死んだときのことを話せば、ロビンは少し言葉に詰まってからそう返した。
今、二人は背中合わせに立っており、ロビンは街を、唯斗は海を見渡している。こうして何か起こらないか、常に監視しているのだ。

こうして以前のように、あるいはそれ以上にそばにいてくれるロビンだが、いまだに唯斗の声は出ないまま。念話での会話はさほど困難はなく、藤丸たちともロビンがいなければ話せるのだが、このままではこの先の特異点探索に支障が出る。


「…なぁ、唯斗。声が出なくなったの、前回の最後に俺がひでぇこと言ったからですよね。ショックだったから、ってとこか?」

(…どうだろう。ショックではあったけど、それ以上のショックは今までの旅の中で直面してきた。多分…怖い、んだと思う)

「怖い?俺が?」

(自分でもあんまよく分かってないけど。ロビンに何を言われるのか、っていうのが、前回めちゃくちゃ怖くて、声が出なくて。そのときの印象が強く頭に残ってるんじゃねぇかな)

「今も怖いんです?」

(あのときほどじゃない、けど…本質的には、どうだろ、まだ怖いのかな)


そのあたりは自分でもあいまいだ。ロビンはもう少し聞きたそうな雰囲気を醸し出してはいたが、追及するのも良くないだろうと思いとどまっている様子だ。
そうするうちに、時計は21時20分を過ぎた。


「…そろそろだな。警戒強めましょう」

(分かった)


何が死因になるのか分からない状態のため、ロビンは市街地側をより注意深く観察する。唯斗も海側という変化の乏しい方角ではあるが、街の明かりに照らされた海の波やビーチ、空を見渡す。
魔術の気配も探索しているが、特に怪しい気配はない。

緊張感が張り詰めていく。波の音、車のクラクション、繁華街の喧騒、それがどれも遠く聞こえてくるようだ。

その次の瞬間、突然、心臓が直接鷲掴みにされたかのような衝撃が走り、思い切り締め付けられるような激しい痛みが走った。まるで、心臓を両手でつかんで雑巾絞りのように捩じっているかのようだ。
あまりの痛みに呼吸が止まり、体を屈めて関節から力が抜ける。


「…ッ!!」


しかし依然として声は出せず、息もろくにできず、唯斗はただ静かに砂浜に膝をついて胸元を押さえるしかできなかった。ロビンはこちらに気づいていない。念話をしようにも、あまりの痛みに魔術回路の無意識で行えるような簡単なコントロールすらできなかった。


「唯斗、なんか異常はねえ、か…っ、唯斗!!」


そこで、ロビンが気づいて慌てて唯斗を抱きかかえる。かろうじて浅く呼吸ができているだけだが、確実に、手足が痺れて動かなくなり、視界は薄暗く、思考も薄れてきた。


「おい、唯斗、唯斗!!」


必死の形相で唯斗の肩を抱き、意識を保つよう呼びかけるロビンに、唯斗は生存のために振り絞っていたすべての気力をなくした上で、念話のための魔術回路の維持だけに集中する。


(…今回は、ロビンの腕の中で、死ねるんだな……)

「っ、唯斗…ッ!」


それだけ心の中で述べてから、唯斗は意識を手放した。



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