唯一と一番−13


目を覚ますと、呆然としたようにこちらを見下ろすロビン越しに、空港の高い天井が見えていた。
ビーチで絶命したその瞬間と同じように、膝立ちのロビンに抱きかかえられて肩を支えられている。


「唯斗、ロビン大丈夫?」


藤丸たちも駆け寄ってきたが、二人の様子から、今回も唯斗が命を落としたのだと理解したようだ。
とりあえず、唯斗はロビンの腕から離れて立ち上がる。藤丸たちに何か返そうとしたが、やはりいまだに声は出せなかった。

そこにBBもやってきて、全員を見渡す。


「…なるほど。外的要因をすべて排除すると、内的要因に死因が切り替わるというわけですね。まぁ、因果とはそういうものですので当然といえば当然ですが。今回の死因は心臓発作。やはり大本からこの因果を断ち切らないといけませんねぇ」

「でもいったいどうやって…」


やるべきことは分かっていても何をすればいいのかは分からない。そもそもこの因果の元がどこにあるのかすら不明なのだ。
なんであれ今回のルーティンに入るべきか、と思っていると、ロビンがずっと黙っていることに気づく。どうしたのかとロビンを見遣ると、唯斗は動きが止まった。


「…もう、もうむりだ……」


膝立ちのまま、ロビンはその綺麗な瞳から、はらはらと涙を流していたのだ。茫然自失といった様子で静かに涙を流す様子に、全員、目を見張る。呼吸すら止まるようだった。
ロビンは自分の両手を見つめる。


「…3回だ、唯斗が死ぬところを、3回も目の前で見た。俺の目の前で、ベランダから飛び降りて、令呪が切れて下を見下ろせば、血を流して倒れている唯斗が見えた。目の前で、頭が半分吹き飛んで、部屋中血で染まって、俺も頭から血を浴びて、あんただった体がソファーにずり落ちるのを見つめてた。そんで、次は俺の後ろで、一人で心臓発作で苦しんでた。俺の背中の後ろで、俺はそれに気づくことができなくて、一人で苦しませちまった…」


訥々と、ロビンが語るごとに水滴が落ちる。
唯斗はすぐにロビンのところに駆け寄ると、そのそばに膝をつき、周りから隠すように抱き締める。ロビンは唯斗の肩に顔を埋めて、縋るように唯斗の背中に手を回した。


「もう、あんたが死ぬところを、見たくねぇんだ、むりなんだ、もう、これ以上は…!」


ロビンがこんなにも感情を表に出しているところは初めてだ。飄々としたこの男が、ここまで感情を露わにするなど今までなかったし、それはBBの知る他の世界のロビンもそうだったらしい。
BBはひどく驚いた様子で口を開く。


「…驚きました。まさかロビンさんが、そこまで唯斗さんのことを愛していたとは。サーヴァントとしての尽くしたいという感情を恋慕と勘違いしているんだとばかり思っていたのですが」


そんなBBの言葉にも返すことができずにいるロビン。痛いほどの沈黙が場を支配する。誰も二の句を継げずにいると、そこにまったく別の声がかけられる。


「おや、これはあまり良くない状況のようだ」

「え、マーリン!?」

「げっ」


なんと、そこに現れたのはマーリンだった。藤丸のサーヴァントであり、今は涼やかな現代風の装いになっている。BBが嫌そうにするのも構わず、ストールをなびかせながらこちらに歩み寄る。


「巌窟王に言われてやってきたのだけれど、ふむ、確かにこれは厄介だ。唯斗君の深層心理の中に因果の糸が絡みついている。私が唯斗君の夢の中に森のアーチャー君を連れて行こう」

「…まぁ、確かに、その夢魔の言うことはもっともですね。唯斗さんの意識の中、そしてロビンさんとの縁に悪さをするようにこの因果が存在しているようですから、そこに至るには夢という深層心理の中に入っていくのが手っ取り早いでしょう」


BBもマーリンの方針に賛成している。それならば、これが一番解決策として早いのだろう。


「すまないね、もう少し早く来てあげられればよかった。夢の中であれば、因果も形となって現れる。自ずとその正体も分かるだろう」


唯斗は顔を上げたロビンの瞳を至近距離で見つめる。まだ声は出ないが、念話で呼びかけた。


(行こう、ロビン。もう少し、力を貸してくれ)

「…あぁ」


ようやく、ロビンはいくらか意志をはっきりとさせて頷く。ここが正念場だ。



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