唯一と一番−14
とりあえずホテルにチェックインを終え、必要なルーティンを済ませたあと、ロビンと唯斗はマーリンの力で唯斗の夢の中に入ることになった。カルデアにいればシミュレーターで代用できたが、今はレイシフト中のため、マーリン本来の力による夢そのもののコントロールを行う。
ネームなどの初動は藤丸たちに任せ、唯斗とロビンは二人用の部屋のベッドにそれぞれ横になる。
そしてマーリンに眠らされると、まるで密度の濃い液体の中に沈むかのような感覚ののち、乾いた空気の畑道に立っていた。
見渡す限りの麦の黄金が広がる畑の中、素朴な土の道に電柱が続いている。
ここにいるのは二人だけ。マーリンは、様子を見守るだけに徹すると言っていた。
「調子はどうです?」
「大丈夫…あ、本当に喋れる。ロビンは大丈夫か?」
久しぶりに直接喋ったような気がする。ロビンに調子を尋ねると、ロビンは少し気まずそうに視線を逸らした。
「できれば忘れて欲しいっつか…さすがに動揺しすぎた…」
「俺は嬉しかったよ、申し訳ない気持ちのがずっと大きかったけど」
「1回は俺が死に追いやったようなもんだし、前回は気づいてやることすらできなかった。申し訳なさっつーなら、俺が死にてえくらいですよ。もう死んでるのにな」
「それも含めて解決しよう。ここは…ドルかな」
唯斗はそこで辺りを見渡した。麦畑が広がり、その向こうには石造りの市街地が見える。
ドル=ド=ブルターニュ、唯斗のフランスの故郷だ。
「唯斗のフランスの家があった場所か」
「そうそう。ほら、あの屋敷」
道の先、森を背後にしてそびえている大きな屋敷を指さす。グロスヴァレ家の本邸だ。その横に立っているいくつかの建物が、親戚と暮らしていた屋敷だ。
「…あそこに行く必要があるんだろうな。ロビン、宝具で俺たちの姿隠せるか?なんであれ、俺の夢なら、それで『姿が見えない』って認識になるはずだ」
「了解」
ロビンは緑のマントを出現させ、唯斗の肩を抱き寄せて二人の頭から覆う。水着のパーカーでは宝具が常時現界していないため、やはり緑がロビンの色だな、と改めて思った。
歩きづらいながらそのまま進み、屋敷に到着すると、開いていた大きな窓から室内に入る。
そっと歩けば、食堂室で昼食を囲む親戚の姿があった。
楽し気な会話、美味しそうな食事。ありきたりなフランスの地方の光景だ。
そこを通り過ぎて、唯斗は2階に上がる。古い木の床板がぎしりと鳴った。
廊下を進んで、開かれた扉から、ある部屋を覗き込む。そこは唯斗の部屋だ。
幼い唯斗が、一人で本を読んでいる。脇には、適当なライ麦パンとスープだけがトレーに乗っていた。
(…懐かしいな。いつも通り、一人でメシ食って、一人で歴史書読んでる)
(一緒に食事すらとらせてもらえなかったんです?つか、飯の内容だって粗末すぎだろ)
一応念話で会話をすると、ロビンは険しい表情で幼い唯斗を見ていた。ロビンの時代からすれば貴族のような暮らしだろうに、現代においてはそうではないことを理解して、唯斗の置かれた状況を憎たらしく思ってくれている。
いったん屋敷を出て、宝具を解いて二人で歩きだす。のどかで心地よい風景のはずなのに、どこか空が低く、重苦しく、息が詰まるような光景になってしまっているのは、唯斗の過去がそうだったからだろう。
なんとなく、唯斗は自分の感情が見えてきた。マーリンが言っていた通り、形になって表れることで、自分の夢であることもあって理解ができてきている。
あてもなく道を歩きながら、唯斗は口を開いた。
「…今見てもらった通りさ、俺はずっとこうだった。誰からも気にされない、存在を受け入れられない、認められない…一人でいたし、一人で良かったけど、その代わり、俺の存在が何かに優先されることは決してなかった。誰かの一番になったことも」
「唯斗…」
「……初めてだったんだ、ロビンが。ロビンが生まれて初めて、俺を守ってくれた。俺を認めてくれた。俺が隣に存在することを許してくれた。俺が生きることを望んでくれた」