唯一と一番−16
「どんな英霊にも誠実で、まっすぐで、どれだけ世界に傷つけられてきても、俺たち英霊の繋いだこの世界を次に繋ぎたいと言ってくれた。自分に無頓着で、それでも藤丸たちのことは守って、冷静に戦えるのに自分のことはおざなりで。そんなあんたを、放っておけねぇと思った。守りたい、そばにいたい、この俺の手で支えたいってな。でも俺は、自分の感情を過小評価してたんだな。思ってるよりずっと、お前が大切だった」
「今までだって大切にされてた」
「そんなレベルじゃねぇ。俺の在り方は、森の狩人として群れすぎず、依存しない自由なもんだった。なのに、あんたをかけがえのない大切な唯一だといつの間にか認識してた。それに気づいてなかった。目の前で3度唯斗が死んで、やっと気づいた。もう俺は、お前なしに、この世界で呼吸もできねえんだって」
ロビンならなんでも理解していると思っていた。唯斗の感情をお見通しだったこの男が、自分の感情を理解していないとは思いも寄らなかったのだ。
ロビン自身もそう勘違いしていたのだろう。まさか自分が自分のことを理解しきれてないとは、今回のことで気づいた様子だ。
孤であり個であることを良しとした、名もなき無数の英霊、民衆の祈りの先としての英雄ロビンフッド。それなのに、この現界で、ロビンは唯斗を唯一の存在としてしまったのだという。
誰にも顧みられることがなかったが故に、誰かに優先されるほど特別な存在として自分を認識できなかった唯斗。誰にも依存しなかったが故に、誰かがいないと生きられない自分など想像もできなかったロビン。
すれ違ってしまったのは、ある意味で当然のことだった。いや、本当はずっと、二人はずれていた。それが形になっただけなのだ。
「…じゃあ、これからようやく、始まりだな」
「改めて、始めさせてくれるのか、唯斗」
「責任とってもらわないとだろ」
「もちろん。俺のただ一人、一番大切な、マスターであり恋人ですからねぇ。とこっとん愛してやるから覚悟しとけよ」
ようやく、唯斗もロビンも、笑みがこぼれた。改めてここからスタートだ。互いに本当の自分の感情を理解できたここからだ、二人の関係の本番なのだから。
「手始めにロビン、この過去の記憶を浄化してくれ。確かに俺にとって苦しいことばかりだったけど…取り戻したこの世界、俺は案外、嫌いじゃないんだ」
「了解」
ロビンはニヤリと笑うと、右手にボウガンを出現させ空に向ける。不思議と二人とも、何をすべきか理解していた。
「
祈りの弓!!」
その宝具の矢は、光り輝きながら空へと眩く解き放たれる。そして、低い晴天を吹き飛ばし、本当の青空の姿を見せる。
一気に空が高く晴れ渡り、立ちこめた重苦しい空気は爽やかな秋の風に流され、美しいブルターニュの景色が広がる。
過去の唯斗にとっては牢獄のような場所だったが、きっと本当は、いつでもこんな美しい景色でいてくれたのだろう。
サア、と音とともに麦が揺れて、高い空と涼しい風、土の匂いに包まれる。清々しい景色を眺めていると、ロビンが口を開いた。
「この景色ももちろんだが、さっきの重苦しい光景も嫌いじゃなかったですよ」
「なんで?」
「そりゃ、唯斗を育んだ場所だからだ。あんたにとっては苦しい記憶しかないだろう。それでもあんたを形成した場所だ。唯斗がどれだけ大切か理解した今、唯斗を育てたすべての場所が、俺には故郷のように大事に思える」
「…そっか。うん、俺も…嫌いじゃないよ。ロビンがいるから」
視線を合わせて、互いに微笑む。そして意識は上へと引っ張られ、次第に周囲の景色は薄れていった。