brise de printemps 3−3
アレキパを出て二日、二人はペルーの首都リマに到着した。
人口1090万人、これまで訪れた都市で最大規模の巨大都市である。
市内中心部、サン・イシドロ地区のキッチン付きホテルに14時ちょうどにチェックインした二人は、まだ昼間の陽光が眩しく降り注ぐ街を窓から眺めた。
アレキパの次に宿泊したイーカはリマに近い場所にあり、4時間しか走っていない。アレキパからリマまで走るには大変であるため、仕方なくイーカを経由した形である。
そのため、リマにはこんな昼の早い時間に到達している。
「二泊すんのはサンティアゴぶりだなー。にしても結構暑いな」
「ここ数日は平年より高い気温らしい。久しぶりに標高の低い場所に来たってのもあって、ちょっと堪えるな」
リマは一年を通して16度から22度ほどの気温が保たれる、まさに常春の街だ。これまで延々と走ってきた大陸西岸気候にあたるため、緯度のわりに冷涼といえる。
とはいえ今は真夏の1月だ。ここのところは天気予報でも平年より気温が高いと報道されている。
試しにリビングのニュースをつけてみると、やはり天気予報では気温の高さを報じていた。
『中部地方では記録的な高温が続いています。リマやカラヤでは30度近くになり、今日から明日にかけて30度を超えるところも出てきそうです。中部地方の各地のビーチは連日賑わいを見せています』
平年より5度前後高くなっている様子で、ニュースに映る各地のビーチは涼を求める人々でごった返している。
「ビーチかぁ…な、行ってみねぇ?」
するとシャルルは映像を見て、海水浴場に興味を示した。確かにこれまで、さんざん海沿いを走ってはきたが、ビーチになっているところはなかった。
「まぁ、時間もあるし別にいいけど…水着買うか?」
「水着…」
シャルルは少し考えてから、唯斗を見遣る。何かを首をかしげると、「いやだめだ」と突然否定した。
「唯斗の水着は正直死ぬほど見たいけど、他人には見せたくねーんだよな…」
「あ、そう…まぁいいんじゃないか、リマの海はあまり綺麗じゃないし。ビーチ歩いて雰囲気楽しむくらいで」
「それもそうだな!じゃ、早速行くか!」
シャルルはすぐに決断すると、唯斗の手を引いて歩き出す。部屋を出て廊下に進むと手は自然と離れたが、ウキウキとした様子に、唯斗も表情が緩む。
フロントでお勧めの海水浴場を聞いてから、一番規模が大きくそれっぽいところということで、市内南部のビーチを選ぶ。
車を出して近くまで行くと、案の定、車で駐車場は埋め尽くされていた。とはいえ、駐車場などあってないようなもの、あちこちに乱雑に車が停まり、誰も注意していないことから、二人も適当なところに駐車する。ラテン系のこういう適当さは、案外嫌いではない。
車を出れば、ぎらついた日差しの下、波の音と潮の匂い、そして人々の喧騒が五感を刺激した。
そういえば今日は日曜日だった。よりにもよって人出が多いタイミングである。
「なんか面白い地形だよな」
「リマの海岸線は崖だからな。こういう砂のあるビーチは珍しい…っていうか、人工砂かもな」
車で海沿いの幹線道路を走っているときからずっと見えている、海岸線の崖。リマの海辺は、急峻な崖となっており、市街地はほとんどが崖の上にある。ビーチや海沿いの道路は崖の下に位置しているため、ここからは延々と壁のような崖が海に沿って続き、その崖の上にビルが立ち並ぶ様子が見渡せる。南米らしいダイナミックな光景だ。
二人はそのまま駐車場から砂浜に降りる。二人ともサンダルであり、シャルルはジーンズの、唯斗はチノパンの裾をまくっておいた。
シャルルは再びTシャツ姿になっており、唯斗も今日は暑いため、Tシャツに薄手で七分丈のリネンシャツを羽織っている。