brise de printemps 3−5
「んー、楽しそうだけど、俺たち二人で過ごしてるからさ」
「二人で一緒に、四人でどう?案内するわよ」
そうは言っているが、恐らく唯斗は対象外だろう。二人の目的はシャルルのはず。
シャルルも困った様子で、食い下がる二人にどうしたものか、といった感じだ。シャルルもこれで騎士道の王だ、女性たちに恥をかかせるわけにはいかないと思っている様子である。
唯斗はひとつ深呼吸すると、意を決して口を開いた。
「あー…悪いけど、俺とシャ…カルロスは二人で過ごすつもりでここに来てるんだ。また今度にしてほしい」
咄嗟に、シャルルのスペイン語名のカルロスに名を改める。翻訳礼装があるため必要なかったかもしれないが、固有名詞がどう翻訳されるか分からず、一応合わせた形だ。
「ふーん…?でもあなたたち、正直全然タイプが違うわよね」
「うんうん、カルロスは私たちみたいに、もっとアクティブな時間の方が刺激的なんじゃないかしら。あなた、クラブとか縁がないでしょう?」
「私たちと過ごした方がカルロスは楽しいと思うわよ」
「そ、れは…」
正直、それはそうだろうとも思う。二人の言う通り、シャルルは本来、藤丸やこの女性たちのような明るく陽気な者の方が性に合っている。バーで酒を飲み、クラブで踊りあかすようなナイトライフは、シャルルもとても楽しめることだろう。
カルデアにいる頃から、唯斗はシャルルとまったく性格が合わないことはよく理解していた。
それでもだ。
「…それでも、俺たちは一緒にいようと決めた。あなたたちは素敵な人たちだと思う。ナイトライフをシ…カルロスも楽しめるはずだ。でも、そういう違いを超えて一緒に過ごしたいと思えるようになったことを、俺たちは大切にしたいんだ」
確かにまったくタイプの異なる凸凹な二人だ。それでも、唯斗とシャルルは、カルデアの旅の果てに、共に生きていこうと覚悟したのである。
唯斗は半歩前に出て、シャルルを少し隠すように二人に立ちはだかる。
「あなたたちはとても魅力的だ、誘いを断るのは残念だし、この無礼を許してくれとも言わない。ただ、二人にしてくれると嬉しい」
「…あっそ。お熱いのね」
「じゃあいいわ。そこまで言うなら、カルロス君と遊んでも夜の時間もなさそうだし」
女性たちはそれ以上は食い下がらず、少し呆れたように、しかしなぜか羨ましそうな目もしながら、場を後にした。
二人が遠ざかったところで、ようやく、唯斗は詰めていた息を吐き出した。
「はぁ〜…緊張した……」
「…かっっっっこいいな!唯斗!!」
すると、シャルルは堪らないといった様子で叫ぶと、勢いよく唯斗に抱き着いてきた。
「うお、」
「カッコ良すぎて惚れるところだった!いやもう惚れてた!それはもうゾッコンだったな!!」
急にテンションを上げているシャルルは、どうやら唯斗がナンパの女性たちを断ったことにいたく感動しているようだった。
肩を抱かれて頭を撫でられる。唯斗はなんだか気恥ずかしくなってきた。
「…別に、そんな大層なことじゃないだろ…カルロス?」
「つかそれ、偽名にしてもまんまじゃん!」
シャルルも唯斗の照れ隠しに乗ってくれて、体を離して面白そうに笑う。
フランス語のシャルルという名前は、英語でチャールズ、ドイツ語でカール、スペイン語でカルロスとなる。ゲルマン祖語に語源を発し、「自由人・青年・男性的」などの意味を持つ。
思えば随分とシャルルの性格に即した名前だ。
「まぁいいや。唯斗のカッコ良いところ見られたし満足だな。そろそろ戻ろうぜ」
「ん、もういいのか」
「なんかこう、二人きりになりてーなって」
「…それは俺も思った」
どうやら二人とも、なんとなく二人きりになりたいという気分で一致していたらしい。シャルルは満足そうに笑って、駐車場へと戻り始める。
隣を歩きながら、シャルル越しに楽しそうにする人々の喧騒が見渡せて、唯斗はつい視線を逸らした。