brise de printemps 3−12
赤道周辺でひとしきり遊んでから、二人は南部へ移動し、旧市街にやってきた。
キト旧市街は世界遺産の最初の12件として登録されたものの一つであり、近代以降の南米で最も歴史的価値のある都市だ。
車で旧市街の近くまでやってきて駐車場に停めてから、徒歩で独立広場へとやってくる。低層ファサードに飾られた教会と、政府庁舎などの壮麗な建物が囲む緑豊かな広場だ。
「なぁ唯斗、ずっと見えてるあの像はなんだ?」
「パネシージョの丘の聖母像だな。後ろ見てみ?」
「後ろ…うわ、すげー」
広場を経由してまっすぐ続く道。その南方面にはパネシージョの丘に聳え立つ高さ41メートルの聖母像がある。一方、道の北側に目を向けると、巨大なヴォト大聖堂のファサードがその威容を誇る。
まっすぐ壮麗な建物が並ぶ道の端は、それぞれ聖母像と大聖堂が構えているのだ。
パネシージョの丘からヴォト大聖堂まで、独立広場やサンフランシスコ広場を含むこの区画が旧市街である。
そのまま道を進んで、一度右に折れて瀟洒な建物の間を歩くと、今度はサンフランシスコ広場に出る。
「あれがサンフランシスコ教会と修道院。南米最古のカトリック教会だ。南米で最も威厳のある建物だな。ほかにもたくさん、素晴らしい教会がいくつもある。だから、キトのことは別名『アメリカ大陸の修道院』と呼んだりする」
「へぇ〜…すごい街だな、谷間にあるから地形が市街地ではっきり分かるし、教会の塔やファサードがいくつもあって。パネシージョの丘のカラフルな建物も綺麗だし」
「そうだな、ここは南米でも特別な場所かも」
「じゃあ写真撮ろうぜ!」
シャルルは特別な場所と聞いてそう提案した。先ほど赤道線でも写真を撮ったが、ここでも撮影することにしたらしい。
唯斗もさすがに慣れたもので、スマホを取り出してインカメラにすると、サンフランシスコ教会を背景に二人で並んで写真を撮る。シャルルが唯斗の肩を抱き寄せてくっつくのも慣れた。
そうしてしばらく観光してから、いつも通り買い物をしてホテルに戻り、夜になると食事を作ってシャワーを浴びる。
赤道のため、これまでのような夜の長さはもうない。しっかりと夜の暗さが町を包み、明日の国境越えに備えてルートを確認する。
二人でベッドに地図を置いて、検問をステルス通過する方法を考えていた、そのときだった。
「…っ、唯斗、変な気配がする」
「ッ、分かった」
一瞬で緊張が走る。カルデアを出て19日目、まさかここにきて追手だろうか。
唯斗は慎重に、周囲の探知を開始する。魔力走査をかけていくと、やはり魔術師と思われる人物がホテルの外にいるのが分かった。
「魔術協会のやつ?」
「どうだろう、地元の魔術師かも。歴史ある街だからな、かつてスペインから渡ってきた家系かもしれない」
「どうする?先手打つか?」
「たとえ魔術協会でなくても神秘の秘匿に魔術師は拘るものだ。こっちで誘導しよう。なんにせよ、今晩のうちに国境近くまで移動する」
「了解」
シャルルはすぐに荷物をまとめる。一応、二人とも有事に備えてすぐに離脱できるよう準備はしてきた。
荷物はすぐまとめ終わり、部屋の照明を落として足早にフロントへ向かう。24時間フロントで良かった。
慌てて会計を済ませれば、スタッフは非常に不思議そうにしていたが、特に何も言われずチェックアウトは完了する。
フロントから先に出て外を見ていたシャルルに合流すると、久しぶりに念話で報告してくれた。
(魔術師は一人、こっちの様子を窺ってる。魔力の気配からして暗視か何か、魔術で視てるな。唯斗の言う通り、人目を気にしてる)
(フロントにはスタッフ、敷地には警備員。近くにはショッピングモールもある。行動を起こせる場所じゃないな)
(このまま離脱するかい?)
(や、目的をはっきりさせたい。吐かせるぞ)
(了解したぜ、マスター)
これまた久しぶりに、マスターと呼んだ。にやりとしたシャルルはいつも通りで、唯斗も苦笑する。少し緊張していたが、それも和らいだ。そう、獅子王やティアマトとの戦闘に比べればどうということはない。