brise de printemps 3−13


唯斗はシャルルとともにホテルの駐車場に向かい、その途中、こちらを見つめる魔術師とわざと目線を一瞬合わせた。向こうもこちらが気づいたと理解しただろう。
車に乗り込むと、エンジンをかけて発進する。


「旧市街の方へ。独立広場とサンフランシスコ広場の間の道を5月24日広場まで進んでくれ」

「おう!」


シャルルはすぐにハンドルを切って、通りに出て走り始める。
現在時刻は20時過ぎ、南米の夜は治安が悪いため、出歩く者の姿はあまりない。それでも車通りはあるし、ナイトライフの喧騒も聞こえてくる。
魔術師がことを起こすとしても、唯斗たちの誘導に乗って人気のないところに着いてからだろう。

旧市街の通りに出ると、昼間の混雑は嘘のようで、車の姿はほとんどなく快適に走行できる。
背後を見ると、ヴォト大聖堂のファサードにある二つの鐘楼に取り付けられた時計が輝いており、前を見ると、ライトアップされた聖母像が丘の頂上に佇んでいた。


「ちゃんと着いてきてるっぽいな〜。にしてもなんでバレたんだろ?」

「魔術を使ってないからな、シャルルがサーヴァントだってことに気づいたんだと思う。さすがにシャルルくらいの高位の英霊になると、見る者が見ればすぐ分かるからな」

「じゃあ結構有力な家かもな」


戦闘経験は多いが、魔術師との戦闘はそこまで多くない。比較的神秘の濃度が濃い南米だ、簡単にはいかないかもしれない。


「この先の5月24日広場で適当に車を停めて、丘に徒歩で向かう。人気のない路地に誘い込もう」

「分かった。魔術回路ちゃんと開いてる?」

「当たり前だろ」


すでにこちらも臨戦態勢だ。
やがてシャルルは車を旧市街の先、開けた広場の路肩に適当に停めた。揃って車を降りると、寒さが感じられる。気温は10度ほどだろうか。さすがに厚着してくるほどの余裕はなかった。
薄手の長袖のシャツだけではあるが、体を動かせば気にならなくなるだろう。

広場には酒を飲んで騒いでいる若者の姿があったため、二人は丘の方へと向かう。ここは丘のふもとにあたる場所であり、広場からは上り坂になっている。頂上には巨大な聖母像があるが、下から光に照らされているさまが、今は少し不気味に感じられた。

街灯の乏しい坂道に入ると、途端に静けさに包まれた。このあたりは古い住宅街になっており、昼間は観光客でにぎわうものの、夜は人出がなく、民家のか細い明かりが見える程度だ。
家からは時折会話や犬の鳴き声が聞こえてくるが、夜の帳の静けさを助長するだけだった。

少しボロボロになっている古い建物の間を抜けながら徐々に坂道を上がっていく。
やがて車道が終わり、途中から階段になったため、その長い階段を頂上まで上がると、ラモン・ラバ通りに出た。丘の斜面を水平に円を描いて走る横道だ。

道の右側は、右手にレンガの壁、左手に木々の生い茂る斜面が続く様子で、唯斗はそちらに向かった。数十メートルほどはこのような道が続いているため、ちょうど良さそうだ。道幅は二車線分あるかどうかといったくらい、街灯は一応明かりを灯している。

右手が壁になる手前、市街地をちらりと見下ろす。旧市街から100メートルは上がってきたらしく、見晴らしの良いここからは、市街地が一望できた。
街の明かりは地形に沿って波打つように広がっており、ヴォト大聖堂の明かりがひときわ目立っている。光の波が大きくうねるような光景だった。

すぐに汚れたレンガの壁に遮られ、視線を前に、そして注意を背後に向ける。


「…来たぞ」


シャルルはそう言うのと同時に、一度霊体化してから霊位を解除した。纏っていたシャツやジーンズは霊体化によって地面に落ち、直後に姿を現したシャルルはいつもの冒険者の姿になっている。



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