brise de printemps 3−14


「なぜサーヴァントを連れている?いったいどこからそんな魔力が出てくるというのか」

「開口一番によその家に口を突っ込むとは、キトの魔術師はなってないな」


どこからともなく聞こえた声にそう返すと、唯斗たちの正面、鬱蒼とした木々が街灯の明かりを遮る暗がりに魔術師の男が姿を現した。
フードのついたコートをしており、フードを目深にかぶっている。


「重大な神秘の漏洩だ。許されることではない」

「魔術協会の人間か?」


あくまで、唯斗は魔術師として振る舞っている。相手の出方を窺うためだ。


「時計塔を出てはいるが協会のエージェントではない。ただ、サンフランシスコ広場でサーヴァント反応があったことを確認しただけだ。この街の旧市街は私の家の領域なのでね」


さすが古い街だけある、地元の有力な魔術師によって、センサーのようなものがあるのだろう。サーヴァントというより魔術師の反応を探知するためか。まさかサーヴァントがいるとは思わなかったのか、こちらに飛んできたというわけだ。

そして、この魔術師はカルデアに関係する者でもなければ、唯斗の追手でもなかったようだ。いわば縄張りを荒らした謎のサーヴァント連れに対する警戒か。


「それは失礼した。こちらはあくまで、研究のための旅をしているに過ぎない。今夜にはコロンビアに向かう予定だ。ここは互いに、出会いをなかったことにするのが賢明だと思うが」

「いや。さすがにサーヴァントを連れているのは看過できん。名を名乗れ、どの家の者だ」

「残念だ。セイバー、いけ」

「あぁ」


唯斗は答えずにシャルルに指示を出す。シャルルはすぐに飛び出すと、ジュワユーズを出現させて魔術師に斬りかかる。魔術師は咄嗟に飛びのきながら結界を張ったが、簡単に破壊されてしまった。

さらに、唯斗が強めのガンドを射出して地面を抉り、コンクリートが吹き飛んでパラパラと落ちる。魔術師は驚愕したように距離を取った。


「ガンド…!?ルーン系、いやそれにしても威力が強すぎる…サーヴァントを従えるだけあるか」

「っ、逃げる気か」


魔術師は不利だと踏んだのか、壁に跳躍して足をかけると、斜面の下の住宅地へと逃げ始めた。目撃者を出すわけにはいかない。


「シャルルは霊体化、追うぞ!」

「了解!」


唯斗はシャルルが霊体化したのを確認してから、自身にも迷彩術式をかけて斜面から飛び出す。眼下に広がる斜面沿いの住宅地の屋根に飛び乗ると、先ほど上がってきた階段を駆け下りる魔術師の姿を捉える。
オレンジ色の屋根の上を足に強化をかけて走り、眼下の階段を駆け下りる魔術師と並走する。

そこにシャルルが階段に着地して、霊体化を解いて剣で魔術師を弾き飛ばそうとする。意外にも魔術師は強化魔術でそれなりに動けるようで、俊敏に避けたことで階段の柵と街路樹が一部切断される。

唯斗は階段の起点で交差するアンバート通りに面する、古く改修中の病院の屋根を走り、交差点に面した低い塔に手をついて、階段を降り切った魔術師に指を向ける。


転移(ドント)強化(クレヴァート)


魔力が走り、交差点の石畳からいくつか石が空中に転移すると、強化されてタングステンのような強度になる。


指向(ポエント)射撃(タン)!」


そしてそれを、弾丸のように射出した。金属のような硬さの石が次々と魔術師に向かって銃弾のようにして飛び出していく。魔術師に当たらなかったものは石畳に当たってその石を砕きバラバラにする。
結界によって、魔術師に向かったものも弾かれてしまったものの、そこに生じた隙をついてシャルルが斬りかかった。

血が飛び散り、魔術師は呻きながらもなんとか走り出す。まだ強化をかけてサーヴァントを撒くくらいの元気はあるらしい。血こそ出ているが致命傷ではないだろう。

魔術師はアンバート通りを北へと走り始め、唯斗は通りに面した病院の屋根を引き続き走る。


(シャルル、この先少し人通りの多い道に出る。霊体化してくれ)

(了解!)


シャルルの姿が見えなくなり、迷彩をかけている唯斗の姿も見えないだろうことから、背中から血を流す魔術師だけが通りを走っている。時折、牽制のガンドを放つと、向こうもこちらに光線をいくつか放ってきた。すべて結界で弾いていれば、すぐに前方にやや人通りのある道が見えてくる。



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